Research Abstract |
本年度は計画に基づいて実験を行い,以下の研究結果を得た。 1.葯培養によるカルス誘導および子球再生のための培養法について 1)葯切断培養 一核小胞子ステージの'カサブランカ'の5つ分割した葯と分割しないでそなままの完全な葯を同組成の培地(MS+2mg/l picloram+2mg/l BA+6%ショ糖)で培養した。2ヶ月の培養期間中,いずれの外植体もカルスを形成しなかった。2)植物成長調節物質の影響 一核小胞子ステージの'カサブランカ'葯と花糸を,異なるオーキシン(picloram, NAA, 2,4-D, IBA)とサイトカイニン(BA, TDZ)を含むMS培地で培養した。2ヶ月の培養期間中,いずれもカルスを誘導しなかった。培養2ヶ月後,2mg/l NAAとBAを添加した培地では,花糸からの子球が観察された。3)ショ糖濃度の影響 一核小胞子ステージの'コネチカットキング'葯を,3,6,9および12%ショ糖を含むMS培地で培養した。体細胞由来のカルスの誘導は,3%ショ糖区では0%,9%ショ糖区は93%の誘導率であった。また,0.2%活性炭の添加はカルス形成を抑制した。4)外植体発達ステージの影響 二分子から二核までの4つステージにおいて'エンチャントメント'の葯や花糸をカルス誘導培地で培養した結果,一核小胞子ステージの葯が他のステージのものより高いカルス誘導率を示した。花糸培養では,全てのステージにおいて高いカルス誘導率を示した。以上の結果はユリの品種間および外植体の種類の間でカルス形成に差があることを示し,この点について今後検討する必要がある。 2.ウイルスの局在性と検定法について 1)異なる器官におけるELISA法によるウイルス検定 LSVまたはCMVに感染された'エンチャントメント'と'カサブランカ'の葉,葯,花糸,花弁および子房を用い,ウイルス濃度(吸光度)を測定した。品種や器官の間で相対的濃度に差があった。'エンチャントメント'のLSV感染株の葯やCMV感染株の子房では低い吸光度であった。一方,'カサブランカ'のLSV感染株では葉以外の器官やCMV感染株では花糸が低い値であった。2)器官内のウイルス分布 'エンチャントメント'と'カサブランカ'葯や花弁を用い免疫組織化学染色法により観察した結果,LSVとCMVは維管束近傍の細胞に局在することがわかった。3)ウイルス検出法 3種類のユリにおいて,デザインしたプライマを使ったRT-PCR法によるLSV, CMVおよびLMoVの検出に成功した。ウイルスの検出率はELISA法の18%に対し,RT-PCR法が82%であった。ELISA法よりもRT-PCR法が精度の高い方法であることを示した。(発表論文) 3.花器官の培養による子球再生とウイルスフリー LSVまたはCMVに感染された'エンチャントメント'と'カサブランカ'の葯,花糸および子房を用い,カルス誘導を行った。また,葯および花糸由来のカルスからの子球再生に成功した。一部のカルスおよび再生個体に対するELISA法によるウイルス検定の結果,すべてがウイルスフリーであり,花糸培養によるウイルスフリー個体作出の可能性が初めて示唆された。
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