Research Abstract |
マツ材線虫病被害林の修復保全を目的として,岡山県佐伯町の岡山県自然保護センター内マツ林でマツ材線虫病被害発生と立地の関係,および里山利用をもとにした修復保全手法を検討した。亜高木層以下の下刈りを行う下刈り区とその対照区それぞれの処理区で,土壌のAO層除去区,リター層除去区,およびAO層残存区を設定しており,今年度は,残存するアカマツ林冠木の成長と林床におけるアカマツ実生の定着にそれらの処理が与える影響を検討した。また,これらの成果を加え,3年間の調査研究を総括した。 残存するアカマツ林冠木の肥大成長では,下刈り区で成長の季節変化に停滞がみられず,年間の相対成長量でも下刈り区のほうが有意に大きかった。したがって,下刈り処理によって,被圧から解放され成長が促進されることが示唆された。アカマツ実生の定着では,実生の発生率が下刈りと有機物層除去によって増加した。発生後の生残率では,下刈り,および有機物層除去によって生残率が高まった。実生の死亡率は発生後3週間から4週間までが著しく高かった。この時期には,有機物層残存区の実生は根系を有機物層内にしか発達できておらず,有機物層内の菌害や乾燥害が死亡率を高めることを明らかにした。以上から,下刈り,および林床の有機物層除去処理によって,残存するアカマツ林冠木の成長とアカマツの更新が促進されることを明らかにした。 3年間の総括として,以下のような結論が導かれた。マツ材線虫病の被害率は,湿潤な立地である斜面下部で高く,乾性的な立地である斜面上部で低い。この関係は,乾性的な立地で生育したマツは乾燥ストレス耐性を獲得し,マツ材線虫病に対する感受性が低くなるというマツの樹木生理的特性で説明される。被害マツ林では,下層木の除去と林床有機物層の除去を行うことによって,残存するマツ林冠木の成長とマツ実生の成長が促進され,健全なマツ林再生が期待される。
|