2003 Fiscal Year Annual Research Report
農生態系の土着天敵を活用したハモグリバエ類の生物的防除
Project/Area Number |
14560041
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Research Institution | University of Miyazaki |
Principal Investigator |
大野 和朗 宮崎大学, 農学部, 助教授 (10203879)
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Keywords | 環境保全型 / 生物的防除 / マメハモグリバエ / トマトハモグリバエ / 土着天敵 / エンドウ / 地域資源 / 普及技術 |
Research Abstract |
環境に優しい農業として天敵利用は注目されているが、海外あるいは他の地域からの天敵導入がその地域の生態系さらに生物多様性(遺伝子汚染)に影響を及ぼす可能性が指摘されている。また、さまざまな商品化された天敵の利用は農薬の費用の数十倍と高く、天敵利用の普及の大きな妨げとなっている。環境に優しい真の環境保全型害虫管理そして経済的に農家へ普及可能な生物的防除技術を確立するため、農薬に強いLiriomyza属ハモグリバエ類に対する土着天敵利用技術を検討した。エンドウは多くの農家が自家消費用として栽培している作物である。このエンドウの葉に潜るナモグリバエには土着の寄生性天敵(寄生蜂)が多数寄生する。農家がエンドウの被害葉を圃場で採集し、自分の野菜施設へ設置することで、果菜類の害虫ハモグリバエ類を防除できる技術を本研究では確立した。県内および南九州の各地からエンドウ被害葉を採集し、約2万頭の寄生蜂を同定した結果、寄生蜂21種が得られ、その多くはLiriomyza属ハモグリバエ類にも有効に働く種であることを明らかにした。また、冬から春にエンドウのフェノロジーと、エンドウ上でのナモグリバエの発生パターンならびに寄生蜂による寄生率の推移を調査した。その結果、3月下旬でエンドウ株下位の葉で60-80%の寄生率が、さらに4〜5月では100%近い寄生率となることが明らかとなった。これらの結果を踏まえ、地域農家に対してエンドウのナモグリバエに発生する土着天敵の利用マニュアルを作成した。キュウリ、ナスおよびトマト栽培農家合計30人の防除の取り組みの結果、約60%の農家がハモグリバエの防除に成功したこと、またほとんどの農家が継続の意志があることが明らかになった。なお、気温の低い冬から早春にゆっくりと生育するエンドウ上ではまず低温期に活動できるナモグリバエが発生し、高密度となる。そして、暖かくなった春に寄生蜂が活動を開始し、急激に寄生率が上昇することが判明した。エンドウは自然界が作り出した天然の天敵大量増殖工場と考えることもできる。本システムのアイデアを他の害虫類とその天敵のシステムに援用することで、世界的にも類を見ない地域天敵資源を用いた生物的防除技術の展開が可能になると考えられた。また、エンドウ圃場に果菜類の害虫であるマメハモグリバエやトマトハモグリバエが潜孔したインゲンマメ株をオトリトラップとして設置したところ、土着天敵の反応は天敵が育ったナモグリバエの個体数により大きく影響されていることが判明した。また、実験室内での結果から、寄生蜂は自身が育ったハモグリバエよりもそのハモグリバエが潜孔する植物に反応していることも明らかになった。これらの知見から、標的となる害虫よりもその害虫が摂食している植物に由来する化学刺激による定位付で天敵の放飼効率の向上が期待できると考えられた。今後の天敵利用を考えていく上で大変重要な示唆を含んでいる。
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