Research Abstract |
心不全(CHF;chronic heart failure)患者の末血中炎症性サイトカイン(interleukin (IL)-6,IL-1β,tumor necrosis factor(TNF)-α)濃度は健常人に比して有意に上昇しており,その値はCHFの程度(NYHA分類)と良い相関関係がある。一方,動物実験より炎症性サイトカイン自身が心機能を悪化させる。C-reactive protein(CRP)は急性炎症等で上昇する急性反応性蛋白であるが,冠動脈粥腫・単球内にも存在し,単球上に炎症性サイトカインを誘発するため,CRPはCHFの発症に直接関与している可能性がある。最近,高脂血症患者にHMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)が用いられるが,スタチンは高脂血症患者の血中炎症性サイトカイン濃度を低下させるため,スタチンの投与はCHFを改善させる可能性がある。対象と方法:健常者(20例,平均年齢52歳),CHF患者(52例,平均年齢65歳,平均左室駆出率(EF);26%)より単核球を抽出。CHF患者において,高脂血症の有無によりスタチン投与群(S群;n=26),スタチン非投与群(N群;n=26)の2群に分類。両群間で,EF,血漿中brain natriuretic protein(BNP;心筋壊死の指標)値,無刺激下(Control),CRP(25μg/ml;CHF患者に認められるCRP濃度)刺激時における単球の産生する炎症性サイトカイン(IL-6,IL-1β,TNF-α)値をスタチン投与前,投与6ヶ月後にELISA法にて測定。また,心事故(心不全悪化による再入院,心不全死)の有無を検討。結果:1)Control,CRP刺激時に,CHF患者単球の産生するIL-6,IL-1β,TNF-α値は,健常人に比して高値(p<0.01)。2)スタチン投与6ヶ月後,単球の産生するサイトカイン,BNP値はS群では減少したが,N群で変化なし。3)スタチン投与6ケ月後,S群のEFは改善傾向(p=0.06),N群は変化なし。4)平均2.4年の経過観察中,N群の心事故は12例に対し,S群で5例のみ(p=0.03)。5)両群間で,スタチン投与前の年齢,薬物療法,NYHA分類,EFに差なし。総括;スタチンは,心不全患者の単球の産生する炎症性サイトカインの発現を抑制し,心事故を減少させる。
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