Research Abstract |
目的と方法:家族性大腸腺腫症(FAP)等,家族性腫瘍について,「仮説:がん素因遺伝子診断を行い,陽性者に化学予防や予防的切除術を実施した場合,従来の標準治療と比較して,費用便益比が大きい。同様に費用効果分析,および費用効用分析の結果も優れている。」を,システムモデルおよび調査結果の分析によって検証する。本年度の実施項目は以下の通りである。 (1)国内外の遺伝子診断および遺伝情報の取り扱いに関する法律やガイドラインを収集・整理した。 (2)FAP患者・家族の同意に基づき,FACT-G等QOL調査,不安尺度(STAI)およびがん遺伝子検査の意識調査を実施した。対象症例として,多発性大腸腺腫の患者について同様の調査を行い,比較対照した。 (3)遺伝子診断のもたらす心理的インパクトについて,遺伝子診断の実施および結果の開示が,患者のQOLに与える影響を考察した。 (4)家族性腫瘍患者・家族の意識する「社会的不利益」について,調査票調査およびヒアリングを実施した。 (5)主要ながんの診療経過のシステムモデルを発展させ,遺伝子医療の累積医療費と労働生産性とのバランスシートに基づき,経済分析を試みるためのモデルを整備した。 結果:(2)(3)について,遺伝子検査前と,遺伝子検査の結果開示後一ヶ月で,QOL各項目,および不安尺度,自覚的健康度の変化の有無を検討したが,FAP患者,多発性大腸腺腫患者とも検査の前後で有意の変化を示さなかった。(4)「生命保険」に関し,FAP患者(46人,男:女=14:11,年齢39.7±13.0歳)の37.3%が不利益を被ったと回答した。ヒアリングで,FAP, Von Hippel-Lindau病等患者の主たる関心事は,難病指定を受け特定疾患研究事業の対象疾患となり医療費が公費負担となること,および,生命保険等の加入,更新で不利な扱いを受けないことであった。
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