2003 Fiscal Year Annual Research Report
戦前期日本の精神医療における病院と家庭の役割の研究
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14572136
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
鈴木 晃仁 慶應義塾大学, 経済学部, 助教授 (80296730)
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Keywords | 精神病院 / 精神医療 / マラリア療法 / インシュリンショック療法 / 電気痙攣療法 |
Research Abstract |
15年度は、二つの方向で研究を進展させた。前年度から収集・複写・入力した王子脳病院の患者の量的なデータをもとに、本格的な分析を開始したことが一つ、これまでの質的なデータと連結させ、量的なデータの入力を開始したことがもう一つである。後者については、方法論的な新しい試みとして、カルテの記載を質的情報としてそのまま分析する「質的データベース」構築の準備のために、カルテの情報の入力を開始した。前者については、本年度注目した重要な指標は、治療法の患者入院パターンへのインパクトと、入院患者における男女比である。研究対象である王子脳病院は、当時の私立精神病院の中では最も先端的な治療を行っており、昭和初期から、マラリア療法・インシュリンショック療法、電気痙攣療法などを大々的に患者に行っていた。これらの治療法の導入に伴って、定員の拡大を伴わない入院患者の増加があったこと、「治癒退院」の比率は向上させなかったが、「軽快退院」の比率を向上させたこと、平均入院日数は短縮しなかったが、入院日数の標準偏差が小さくなったことが主たる発見である。男女比については、男性患者が女性患者の約2倍であること、男女の患者の年齢階層別の構成が全く異なっており、女性患者は20歳代にピークを持つ分布だが、男性は20歳代と40歳代に二つのピークをもつツイン・ピークスであること、そして、この患者数と年齢構成の違いはどちらも、男性患者における梅毒の第三期症状として起きる進行麻痺の患者の多さが主たる原因となって作り出されていることが明らかになった。一方で、男性のほうが梅毒の罹患率が必ずしも高くないのに、王子脳病院の進行麻痺患者は男性のほうが圧倒的に多いのはなぜか、また、19世紀から20世紀の各国の精神病統計において男女比はほぼ1:1なのに、進行麻痺を除外してもなぜ王子脳病院では男性のほうが多いのかは、今後の分析課題である。
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Research Products
(2 results)
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[Publications] Akihito Suzuki: "A Brain Hospital in Tokyo and Its Private and Public Patients"History of Psychiatry. 14. 337-360 (2003)
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[Publications] Akihito Suzuki: "Family, the State and the Insane in Japan 1900-1945"University of Cambridge Press. 390 (2003)