Research Abstract |
昨年度は,筋損傷後の回復における筋線維機能的特性と再生分化制御機構の免疫組織学的研究を行った。損傷後2-3日後に収縮系のダメージ量の指標と考えられ張力低下が30%まで落ち込み,14日後には回復した。再生筋に見られる枝分かれ単一筋線維の最大張力/断面積と短縮速度は対照線維より有意に低値を示していた。形態的には十分な回復が観察され,一方Laminin,desmin,colagen III等の膜構造・細胞外情報伝達機構を形成する要素はほぼ正常な局在が観察されたが,収縮・調整・構造蛋白系の各レベルでは,それぞれ十分な回復が進んでいないではいないことが示された。このような収縮機能やそれを支える筋細胞内構造の再生分化と形態変化に対して,再生期に筋の活動様式を変化させた場合の影響を今後検討すべきであるが,筋損傷と回復が同時並行で進行する状態では,回復に及ぼす活動様式の差の検討が困難となる。そこで,損傷に伴う神経筋接合部の解離から再結合が起こる過程を回復の指標と捉え,また,筋損傷を起こさない支配神経軸索の凍結による神経接合部解離させ,回復過程での筋に対する活動様式を変化させる実験を行った。実験方法は,ラット坐骨神経を液体窒素で冷却した鉄棒にて5mm幅ほどを凍結壊死させ,その後の回復を見るものである。坐骨神経凍結時の電顕像から凍結部のミエリン鞘はバラバラに崩壊し,活動電位は全く伝搬されなくなり,軸索終末は徐々に消退し,神経筋接合部は解離を起こす。解離した運動終板のコリンエステラーゼ活性は一過性に低下する。解離時には除神経の影響で筋萎縮が若干起こり,stat3が発現するが筋線維損傷は見られない。解離後9日目で間接刺激張力が発生することから再結合が始まっている事が観察される。この坐骨神経凍結後の数日間に筋に電気刺激による収縮をさせたところ,対象より2日早い7日後から間接刺激張力が発生し,再結合の早期化が進んでいることが示された。この早期化は,電気刺激開始時期が凍結翌日から開始するほど明らかであり,また刺激頻度が多く期間が長いほど有意に起こることか示された。Neurofilament160やα-bungarotoxin抗体を使い接合部を免疫蛍光染像により観察した結果,軸索の発芽・側枝の延長が電気刺激実施により引き起こされていた。また,運動終板のコリンエステラーゼ活性を電気刺激を与えない筋と比較した結果,除神経期の活性の低下が少なく,このため回復速度の短縮化が示された。筋損傷に伴う神経解離時における強制トレーニング(筋活動)では,損傷の拡大と回復の遅延が引き起こされた。一方,筋損傷によるLIFの発現は,接合部軸索逆輸送を介し神経細胞体でのLIF-receptorとの反応・gap43とともにstat3リン酸化からc-fosなどいくつかのサイトカインを介して筋管の発現を増強させることが知られている。本研究で示された神経筋解離時の筋収縮により,再結合が早期化したメカニズムはこのようなサイトカイン計の働きが関与していたことが考えられ,運動に伴う筋損傷は同時に回復の早期化にも関与する可能性が示された。
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