Research Abstract |
1.聴覚障害乳児の注視行動による母子のコミュニケーションの発達:聴覚障害乳児1例を対象に,生後4ヵ月から10ヵ月まで観察し,母子コミュニケーションの成立過程について経時的に検討するとともに,健聴児の母子コミュニケーション関係の成立過程との比較検討を行った。聴覚障害児は,4ヵ月および6ヵ月で,健聴児に比べ母親への注視時間が短く,母子コミュニケーション成立困難を認めた。しかし,8ヵ月,10ヵ月になると,自発的に母親を見ることが増え、驚いたり,喜んだりするような場面で母親と対象物の間で視線を交替させる様子がみられ,母子コミュニケーションの改善が認められた。したがって聴覚障害児に対する早期からの介入は,母子コミュニケーションの改善にとって意義があると考えられた。しかし,健聴児に比べ,やりとりの持続性に欠ける傾向がみられ,やりとりの継続と展開を促進する介入の必要性が示唆された。 2.重度の構音障害を伴う言語発達遅滞児のコミュニケーション指導:知的障害,運動障害を合併し,重度の構音障害を伴う言語発達遅滞児1例を対象として,音声言語,文字言語,身振りサインを併用し,対象児の興味・関心に沿った話題や文脈を通して記号の意味の理解および使用を促進するコミュニケーション指導を行った。対象児は,サイトメガロウイルス感染症,11歳,男児である。指導開始時(6歳9ヵ月)の言語表出は「ハイ」,「イヤ」のみであった。現在,1〜2語文の音声言語,身振りサイン,書字により簡単な会話が可能になった。また,携帯電話を用いたVOCA(会話エイド)も使用するようになった。しかし,重度の構音障害により,音声言語のみで了解できる内容には限界がみられた。また,文字言語についても筆談のみで十分なコミュニケーションが可能な段階には達しておらず,複数のコミュニケーション手段を併用することが実用的コミュニケーションを円滑にする上で重要と考えられた。
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