2002 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
14651006
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
品川 哲彦 関西大学, 文学部, 教授 (90226134)
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Keywords | ケア / 倫理 / 正義 / 原理 / 徳 / フェミニズム / 倫理学 / 生命倫理学 |
Research Abstract |
本研究は、1980年代に発達心理学の理論として登場した「ケアの倫理」について、(1)その倫理学的含意、(2)有効な射程の範囲、(3)その拠って立つ根拠を、相対立する倫理観と競合させながら問うことを目的とする。(1)(3)については、正義・公平を内実とした普遍的原則に従い、自律した個人間の関係を調整する近代の正統的な倫理観に対して、ケアの倫理が人間の傷つきやすさから出発し、状況・個人の個別性に配慮する別の倫理観として意義をもち、存立する背景を、H・G・フランクファート、A・ベイアー、Ph・フットなど思想的出自を異にする現代の倫理学者を通して確認しつつある。それとともに、他者へのケアは、人間を超越する存在を媒介とする古代・中世の枠組においてのみ十全に可能なのか、それとも、近代の世俗的な人間関係における共感によっても可能なのか、また、自己へのケアや何をケアすべきかについて、人間の本質や価値の階層を前提する形而上学なしに語りうるか等、さらに深い問題に直面している。こうした基礎的な探究の成果の一つとして、N・ノディングスを、自然主義・直観主義という通常の解釈を超えて、彼女自身が十分には説明したとはいいがたい倫理的自己の概念を手がかりにして理解する見通しを得た。それについては2003年度中に論文にまとめる予定である。(2)については、犯罪被害者へのケアを通した修復的正義に関連する法学(中村直美など)からのケアへの注目など、本テーマの射程の広さを再認識できた。さらに、もともとケアへの関心の強い看護の分野では学会の準機関誌に寄稿する機会を得、本テーマの今日性を再確認した。しかし一方、社会的に応用されるテーマだけに基礎概念の混乱も痛感した。上述のケアの基礎をめぐる問いだけではなく、80年代の正義対ケアの論争もその帰趨とともにその真義を洗いなおす必要を感じている。これらが継続する課題である。
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Research Products
(2 results)