2003 Fiscal Year Annual Research Report
19世紀末フランスにおける家族の規制と「社会的なもの」の役割
Project/Area Number |
14652003
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Research Institution | Shimane University |
Principal Investigator |
佐々木 允臣 島根大学, 法文学部, 教授 (10032624)
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Keywords | フランス革命 / 人権 / 家族 / 生存権 |
Research Abstract |
本年度は、主にフランス革命期の貧困をめぐる法的規制の具体的なあり方とその法的性格についての検討を行なった。革命期の扶助制度は、アンシャン・レジームの諸制度を基礎にしながらも、アンシャン・レジーム以来の批判を取り込んでこれを組み建て直しているだけでなく、革命によって社団国家から国民国家へと国家体制が変換する中でこうした諸制度を位置づけ直している。 アンシャン・レジーム末からさまざまな形で議論されてきた生存権的な権利は、国民国家形成にともない憲法上の問題として位置づけられるが、この時期の生存権的な人権については、いわば誰もが同じように貧困に陥る可能性を想定し、市民相互の関係の中で貧者を援助する義務が議論されている。この生存権論は、19世紀末以降の社会権的な人権論とは異なり、少なくとも法理論上は構造的な貧困を前提として考えられているわけではない。こうした理論構成は、人権宣言で謳われている法の下の平等とも比較的矛盾無く両立できるが、一方でその権利性については弱く、怯的というよりも道徳的なものとして捉えられる。こうした人権の性格については、歴史的観点のみならず法理論的な観点からもさらに検討をする必要がある。 そして、こうした社会的な相互関係の主体として捉えられている個人は、具体的には抽象的な「人間」ではなく家長が想定されている。収入に対して家族の数が多く家族を充分に養うことができない家長に対する援助は、革命期の扶助制度の一つの柱になり、健全な家族の維持、再生産がこうした扶助制度の一つの重要な目標となる。とうした家族に対する規制のありようは、19世紀末から大きな変化が生じて来ることが予想される。次年度は、人権の性格などに関する理論的検討を進めながら、革命期の扶助制度と家族制度との関連をさらに整理したうえで、19世紀末の家族の規制のありようとその法的性格を検討することが課題となる。
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Research Products
(1 results)