2002 Fiscal Year Annual Research Report
市民社会論の日欧比較―大衆社会論と80年代ラディカル・デモクラシー論
Project/Area Number |
14652012
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
山田 竜作 日本大学, 国際関係学部, 専任講師 (30285580)
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Keywords | ラディカル・デモクラシー / 市民社会論 / 大衆社会論 / 社会民主主義 |
Research Abstract |
1980年代欧州左派のラディカル・デモクラシー論は、リベラル・デモクラシーと両立する社会主義の理論的模索であったと考えることができる。その代表的理論家と目されるジョン・キーンおよびデヴィッド・ヘルドに共通する問題意識は、「民主的自律性」の理論的深化であり、またポスト・マルクス主義者と呼ばれるエルネスト・ラクラウやシャンタル・ムフの試みは、左翼が前提としてきた「階級」アイデンティティの脱構築であった。 キーンの場合、東欧においては国家と市民社会の境界線が消滅し、国家がすべての領域を支配するようになっていた一方、西欧では両者の区別は存在するものの、市民社会は(福祉国家という名の)巨大な官僚制国家および大企業に支配される、という形で「国家と市民社会」の問題を提起した。キーンは、「国家か市民社会か」という左翼の伝統的な二者択一の思考を批判し、その両者の「二重の民主化」を構想するが、これは、1950年代に松下圭一が大衆社会論において、「資本主義的疎外」と「大衆社会的疎外」の「二重の鉄鎖」からの解放を説いたのと、理論的にオーバーラップするものと考えられる。 また、「新しい社会運動」を念頭に置くラクラウ=ムフの「民主的等価性」の原理、および民主化闘争の重要な要素としての「リベラルな社会主義」構想は、やはり50年代松下の「国民統一戦線型人民民主主義」と一定の親和性を有する。つまり、階級アイデンティティを絶対視するのでなく、他の諸運動との連帯を可能にする発想であるとともに、デモクラシーを社会主義の手段とするのでなくむしろ社会主義こそデモクラシーを増進するものでなければならない、という構想である。
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