2003 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
14701006
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
大村 敬一 大阪大学, 言語文化部, 助教授 (40261250)
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Keywords | イヌイト / カナダ極北圏 / 民族科学的知識 / 民族動植物分類 / 民族生物学 / 地名 / 民族気象学 / 環境管理 |
Research Abstract |
本年度の調査では、昨年度の調査成果に基づいてカナダのヌナヴト準州のクガールク(旧名ペリー・ベイ)村においてフィールド・ワークを実施し、以下の項目について現地のイヌイトの古老と熟練ハンターに聞き取り調査を行い、極北の環境に関するイヌイトの民族科学的知識について調査を行った。また、このフィールド調査に先立って、カナダのエドモントンにあるアルバータ大学の極北研究所において、イヌイトの民族科学的知識に関する研究の最新情報を収集した。 1 イヌイトの民族動植物分類体系。 2 野生生物の分布と季節移動、野生の動植物それぞれの種に関するイヌイトの民族科学的知識。 3 イヌイトによる野生の動植物の利用法。 4 海氷や積雪、年間の気象サイクルに関するイヌイトの民族気象学的知識。 以上の調査によって、イヌイトの極北の環境に関する知識について以下のことが明らかとなった。 1 [水上(水中):陸上]という基本的な対立軸に沿って体系化された民族動植物分類体系の全容。 2 ハンターのライフ・ヒストリーや狩猟の物語のかたちで蓄積されているイヌイトの民族科学的知識は、地名を核に組織化されている。 3 イヌイトの民族科学的知識の基本構造を構成しているのは、テリトリー(生業活動域)を稠密に組織化するための地名のネットワークであり、その地名のネットワークが、知識の交換や伝達、蓄積にあたって重要な役割を果たしている。 4 地名のネットワークによって組織化されたイヌイトの民族科学的知識は、広域にわたる野生生物の共生関係を動態的に把握する能力に優れており、野生生物の持続可能な利用と管理に欠かせない情報を提供する。 5 イヌイトは過去約50年にわたる動植物の分布や季節移動ルートの変動、気象サイクルの変動など、環境の毎年ごとの変動を詳細に記憶しており、この知識は極北の長期にわたる変動を解明し、環境の持続可能な開発を考えてゆくために重要な貢献をなす。
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Research Products
(6 results)
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[Publications] 大村 敬一: "近代科学に抗する科学:イヌイトの伝統的な生態学的知識にみる差異の構築と再生産"社会人類学年報. 29. 27-58 (2003)
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[Publications] 大村 敬一: "野生の思考の可能性:カナダ・イヌイトの他者表象にみるブリコラージュの秩序"野生の誕生(スチュアート ヘンリ編,世界思想社). 188-217 (2003)
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[Publications] Omura, Keiichi: "Comments on'The Return of the Native'"Current Anthropology. 44(3). 395-396 (2003)
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[Publications] 大村 敬一: "二つの科学の統合から協力へ:カナダ極北圏におけるヌナヴト野生生物管理委員会の挑戦"『海洋資源の利用と管理に関する人類学的研究』国立民族学博物館調査報告. 46. 73-100 (2004)
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[Publications] スチュアート ヘンリ, 大村 敬一: "序章:狩猟採集民をめぐるイメージの虚実"野生の誕生(スチュアート ヘンリ編,世界思想社). 1-26 (2003)
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[Publications] 大村 敬一: "旅の経験を重ねる:極北に生きるカナダ・イヌイトの知恵"野生のナヴィゲーション(野中健一編,古今書院). (印刷中). (2004)