2002 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
14710320
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
大岩本 幸次 大阪市立大学, 大学院・文学研究科, 講師 (10336795)
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Keywords | 中国 / 字書 / 明代 |
Research Abstract |
先ず,日本国内及び中華民国に所蔵される『五音篇海』『五音集韻』明版について書誌学的検討を行い,版本それぞれの時代的特徴や版本相互の関係を大まかに捉える作業を行った。当初予定していなかった中華人民共和国に所蔵の版本についても調査の機会があり,比較的多くの版本を見ることができた。その過程において,例えばこれまで等閑視されていたある明版が,実はかなり早期に刊行された,『五音集韻』受容史において重要な位置にあるものである可能性を見出すなど,公表には至らずとも,これまでの認識を補強あるいは訂正する様々な知見が得られた。その一部は後述する『全書集韻』についての論文にも利用したが,さらに来年度の成果にも関連付けて公表することも考えている。 公表した成果としては明代の韻書資料である『古今字韻全集集韻』(台湾・中央図書館蔵)についての研究が挙げられる。この資料については,『五音集韻』を基に編まれた韻書であるとする見解が既に書誌解題などに見えていたが,詳細に立ち入って調査されることは皆無であった。今回,この『全書集韻』について書誌的調査を行った上で,その反切や門法について全面的検討を行った。その結果,『全書集韻』に採用される門法は明代も比較的晩期のものであり,また刊行に参加した刻工も主として明代中期に活躍した人々であること,底本にした『五音集韻』も明代中期以降の版本であるらしいことが判明し,この資料の成立年代を考える上で重要な手がかりが得られた。また反切等の検討から,『全書集韻』における韻学の応用はとても精密とは言い難く,韻学に通じた者の手に成るとは考えにくいものであることが明らかになり,現存版本の状況等と併せ考えるに,『全書集韻』は『五音集韻』の内容をその附録も含めて機械的に圧縮,一種のダイジェスト化をはかることを目的として編纂された韻書である可能性を見出した。
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