2002 Fiscal Year Annual Research Report
20世紀後半における自然科学研究の動向と英米ポストモダン小説との関係
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14710332
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
木原 善彦 大阪大学, 言語文化部, 助教授 (60299120)
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Keywords | ポストモダン小説 / 現代科学 / トマス・ピンチョン / ウィリアム・ギャディス / ドン・デリーロ / 現代アメリカ文学 / 複雑系 / ポストモダニズム |
Research Abstract |
本年度は関連図書の購入や大英図書館利用などにより、もっぱら基本資料の収集および整理を行い、研究の全体像を絞り込んだ。 まず歴史的には、18世紀の合理主義者が世界を「時計仕掛け」の機械のイメージでとらえ、19世紀のロマン主義が世界を機械とは異なる「有機体」ととらえなおし、さらに20世紀に入ってからは、世界を「宇宙的なダンス(戯れ)」と見てきたという流れの存在がキャサリン・ヘイズらの研究で明らかにされている。20世紀冒頭においては1905年のアインシュタインの相対論と1916年のソシュール『一般言語学講義』の間に重要な照応関係が見られ、これが文学におけるモダニズムの思潮と密接に結びついている。微妙な位置にあるのが1924年の量子力学の発見である。これ以後前景化されるようになった不確定性は、モダニズムに影響を与えたのみならず、ポストモダニズムにも継承された重要な要素だった。これ以後前景化されるようになった不確定性が、1960年代のカオス研究とその後の複雑系研究において新たな様相を帯び、これが英米のポストモダニズム文学にも密接に関連していると思われる。複雑系の諸科学とポストモダン小説との間に見られる共通点の主要なものとしては、非線形性、再帰性、不可逆性、自己組織化などである。すなわち、ポストモダン小説にしばしば見られる、断片的な語りや一貫しない視点(非線形性)、フィクションについてのフィクションとなっているというメタフィクション性(再帰性)、偶然的事象の決定的影響と歴史性の重視(不可逆性)、内省的な意識と意志を持った立体的な人物が登場するリアリズム小説とは異なり二次元的登場人物が社会的自己組織化のエージェントとして描かれること(自己組織化)などの諸特徴が、「複雑系」をキーワードにするとすっきりと整理できる。 今後は個々のポストモダン作家の作品のテーマ、文体、修辞技法などを細かく検討していく。
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