2004 Fiscal Year Annual Research Report
20世紀後半における自然科学研究の動向と英米ポストモダン小説との関係
Project/Area Number |
14710332
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
木原 善彦 大阪大学, 言語文化部, 助教授 (60299120)
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Keywords | ポストモダニズム / 現代アメリカ小説 / ポストモダン小説 / 現代思想 / 現代自然科学 / 文体論 |
Research Abstract |
たとえば、かつてはダーウィンの進化論が自然主義文学の潮流を生んだように、現代においても、科学と文学との間の影響関係は見逃せない。にもかかわらず、現実には、現代におけるこの両者の関係はあまり省みられることがない。そこで、とくに第二次世界大戦後の自然科学思想と文学的潮流との影響関係ないしは呼応関係を研究することにより、20世紀後半のポストモダニズムというものをとらえ直した。 本研究は、トマス・ピンチョン、ウィリアム・ギャディス、ドン・デリロらをはじめとする現代英米作家たちの作品を取り上げて、ポストモダン的とされるそのテーマ的・文体的・修辞的・特徴等を分析し、現代の自然科学的知見がそこに与えている影響を明らかにすることを目的とした。 最終年度となる平成16年度には、文学作品にとどまらず、現代の自然科学思想が大衆文化に与えた影響も視野に入れつつ、研究を行った。そこで明らかになったのは以下の点である。第二次世界大戦後のポストモダン文学作品や同時代のポストモダン大衆文化に最も大きな影響を与えた三つのものは、核技術、バイオテクノロジー、情報テクノロジーである。大衆文化においてはこれらの技術の脅威という側面が希望としての側面よりも強調され、ポストモダン小説においてはこれらの技術の臨界点における人間の人間的側面に焦点が当てられる。いずれの場合も、現代の自然科学思想が一方向的に文化に影響を与えていると考えるよりも、両者の間に相互的な影響があると考えるべきである。世紀末に自然科学の領域でカオスや複雑系の研究が盛んになったことはポストモダン文化と共鳴した現象であり、ともに近代と合理性という知的枠組みを乗り越えようとすることから生まれた流れだった。
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