2002 Fiscal Year Annual Research Report
イギリス文学における人種問題とヒューマニズムの限界に関する研究
Project/Area Number |
14710339
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Research Institution | University of the Ryukyus |
Principal Investigator |
園井 千音 琉球大学, 法文学部, 助教授 (70295286)
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Keywords | イギリスロマン派文学 / 人種理論 / 奴隷貿易 / データベース / 国際情報交換 / イギリス:フランス |
Research Abstract |
本年度の研究においてはイギリスロマンティシズム文学と人種問題という観点から以下の4点を中心に研究を行った。1.イギリス奴隷貿易の歴史的政治的資料(図書、雑誌、新聞など)の収集と分析。2.18世紀、19世紀ヨーロッパにおける人種理論(サミュエル・スミス、ピーター・キャンパーなど)に関する資料収集と分析。3.イギリス奴隷貿易廃止論また擁護論に関する政治的社会的資料収集とその分析。また人種理論との影響関係の考察。4.ウィリアム・ブレイク、S.T.コールリッジなどの文学作品における奴隷制や奴隷貿易廃止に関するテーマの分析。特に研究1、2に必要な研究資料は国内では入手が困難だったので、イギリスにおける研究機関(大英図書館、ボドリアン図書館、ノッティンガム大学図書館、ノッティンガムトレント大学図書館)での調査、分析を行った。 18世紀後半の奴隷貿易廃止論と擁護論の詳細な分析によって明らかになったことは、奴隷貿易廃止という社会的問題と当時のイギリスの経済問題、道徳観、黒人観の密接な影響関係である。例えば、トマス・クラークソンやジョン・ニュートンは奴隷貿易完全撤廃を主張し、一方、エドマンド・バークは、廃止論を支持しながらも植民地における奴隷のキリスト教による文明化の重要性を主張する。黒人の権利また平等という概念においては廃止論、擁護論ともにキリスト教的ハイエラーキー思想や人種理論の影響に起因する人種差別観が見られる。これは18世紀末の平等概念、のある種の限界を示す証拠といえる。これらの研究結果をふまえたブレイク、コールリッジなどの奴隷貿易に関する文学作品の分析によって明らかになったことは、これらの作品は少なくとも2つの特徴、すなわちロマンティックヒューマニズムに起因する奴隷制に対する批判と潜在的なキリスト教的白人優位思想を示す。これらの点をふまえ、本年度10月にイギリス・ロマン派第28回全国大会において、「奴隷性に関するロマン派言説と共和主義的平等概念」というテーマでコールリッジの文学作品と奴隷貿易の関係を中心とした新たな解釈を発表した。またこのことは来年度には論文として発表する予定である。来年度はさらにブレイク、ワーズワースなどの他のロマン派作品と奴隷貿易問題や人種問題の文学的意味とその社会的意味についての検証を行なう。
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