2002 Fiscal Year Annual Research Report
古代日本における文学と「法」の関係―平安前期文人貴族の貴族制構想を手掛りとして
Project/Area Number |
14720001
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
桑原 朝子 北海道大学, 大学院・法学研究科, 助教授 (10292814)
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Keywords | 貴族制 / 文人貴族 / 意識構造 / 叙情詩 / 法 / 菅原道真 / 三善清行 / 体制構想 |
Research Abstract |
本研究の目的は、平安前期の文学と「法」の変化に深く関わる文人貴族の意識構造と、それに支えられた貴族制構想とを解明し、これを手掛りとして古代日本における文学と「法」との関係について考察することにある。 今年度は、まず、当時の漢詩文と律令格式を中核とする法制史料とを分析し、それぞれの通時的な変化の諸相とその意義の解明を試みた。その結果、承和期(834〜848)に、文人貴族の中から、自らの視点によって自己と他者との断絶を詠い上げる真の抒情詩人、換言すれば主体的に物事を判断できる人間が現れ、それによって宮廷社会の構造、特に君臣関係が大きく変化すること、また、「法」の分野でも、発議主体の中心が君主・上級貴族から文人貴族を含む中下級官人へと移行し、文体が平易で明晰になること等が明らかになった。「法」の変化は、それが受け手による吟味・批判に開かれたものになったことを示しているが、これを支えていたのが、詩作によって培われた、自己の視点で物事を見るという文人貴族の態度や鋭い言語感覚であったと考えられる。 続いて、このような文人貴族の意識構造の変化を一身に集約する菅原道真および同じく文人貴族でそのライヴァルにあたる三善清行の著作を分析し、両者の体制構想を再構成する作業に着手した。道真の詩からは、中央で政治に携わる者と在地支配を統轄する者とを截然と区別し、前者に詩人かつ儒家という要件を課す、彼の二階層の貴族制構想が窺えるのに対し、清行の散文からは、この二者を互換的なものと考え、後者である受領層が中央の政治をも主導するという体制構想が読み取れる。来年度は、前後の時代の史料も対象に含め、貴族制の質を決定する中央と在地社会との関係についての考察を行い、議論を補強する予定である。
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Research Products
(2 results)