2004 Fiscal Year Annual Research Report
差別是正の法理論から新しい権利へ-「家庭生活を営む権利」の確立を目指して
Project/Area Number |
14720044
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Research Institution | Hokkaido University of Education |
Principal Investigator |
菅野 淑子 北海道教育大学, 教育学部岩見沢校, 助教授 (90301960)
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Keywords | 家族的責任 / 性別役割分担 / 育児介護休業法 / 次世代育成支援対策推進法 / 少子化社会対策基本法 / 男女共同参画社会基本法 / 男女差別 |
Research Abstract |
本研究を開始して、3年間が経過した。この間に、少子化社会対策基本法や、次世代育成支援対策推進法が成立した。少子化社会への道を突き進むわが国にとって、もはや合計特殊出生率1.29(2003年度)の数値は無視できないものであり、この状況を変えるために法制度の整備が進められている。 私の専門分野は労働法であるが、常に、わが国の労働法が「職場のみの労働者」に着目した制度であることに疑問を感じてきた。労働者は家庭人でもあり、また、自分自身が「家族」と思う家族との時間を過ごすことによってまた仕事への意欲を取り戻していくものである。そういう意味で、わが国が現在目指すところの「女性に子どもを産んでもらう」社会を目指す法律(上に挙げた少子化法、次世代法、及び男女共同参画社会基本法や男女雇用機会均等法、育児介護休業法)は、一方では女性に職業人たることを求めつつ、女性が子どもを産まないことには「次世代」が育たず、年金制度は崩壊し、国力が衰退する、として、女性たちのリプロダクティブ・ヘルス/ライツを軽視しかねない動きも見せる。またこれらの法が、少子化を問題としていながらシングルマザーや離婚家庭の子どもたちの良い育ちを目指すことを主眼に据えてはおらず、父親と母親と血縁の子ども2名ほどを構成者とする「家族」をスタンダードとイメージしていることを否定できない。 当初、本研究を開始した際には、家族が一緒に暮らすための権利、あるいは、家庭生活を送るための権利の構築を目指そう、と考えていた。それは、家庭生活の維持を無視した企業の配転命令等に対抗する手段として、そういう権利の構築がありうるのではないかと考えたからである。しかし、「家族」じたいの定義が変わりつつある現在、単純に「家庭生活を営む権利」をベストな手段と考えることができなくなった。こうした時勢にかかわるテーマを見つめるとき、3年間という年月は短くもあり、また、長すぎるということもいえたのかもしれない、と思う。 ともあれ、自分が家族と思う人をケアする、お互いにケアしあうための権利というものは、育児介護休業法を根拠としても当然存在するものと考える。育児や介護を男女労働者に休業理由としてゆるすという方法でプライベートな生活に最小限しか踏み込まないようにしてきた法が、男女共同参画法や、少子化法、次世代法でその方法論を変えた。私はこのやり方に賛成することができない。リプロダクティブ・ヘルス/ライツを最大限尊重するならば、国は「子どもを産み育てることに夢を持つ」ような社会に協賛することを、法によって国民に求めることはできないと考えるからである。本研究の成果については、あらためて、2005年5月日本労働法学会にて報告する。
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Research Products
(5 results)