2002 Fiscal Year Annual Research Report
生命・身体等の特殊な法益に関する法益主体の自己決定権の意義及び限界
Project/Area Number |
14720054
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
深町 晋也 岡山大学, 法学部, 助手 (00335572)
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Keywords | 法益主体の自己決定権 / 主観的正当化要素 / 同意の認識 |
Research Abstract |
1.法益主体の自己決定権の意義は、刑法上、主として、「法益主体(被害者)の同意」という問題領域で議論されている。本年度は、法益主体の自己決定権の意義と限界とを考察することを主たる目的とし、特に、法益主体の自己決定権が有する「犯罪成立否定効果の絶対性」を検討対象とした。 2.従来、刑法学では、法益主体の同意は違法性を阻却するものとされていたが、行為者が、法益主体の同意を認識していない場合には、同意が有効となる要件を欠くとして、その違法阻却効果を一切否定する(既遂説)か、あるいは部分的にしか認めない(未遂説)との理解が通説的であった。しかし、法益主体の自己決定権の発現である同意が、なぜ行為者の認識を要件とするのか、については、これまで充分な検討がなされておらず、むしろ、(正当防衛における防衛の意思を中心に論じられてきた)主観的正当化要素論を単に同意の場合にも当てはめただけに過きないものであった。 本研究では、主観的正当化要素論において通説的な、こうした「一般化アプローチ」に代わり、違法阻却事由ごとに行為者の認識の要否を論ずるべきという「個別化アプローチ」を提唱した。そして、同意においては、法益主体が「自己の法益」を放棄し、いわば行為者を「自己の腕の延長」として用いることがその本質であることに鑑みれば、同意の犯罪成立否定効果は、行為者の認識には依存しないとの帰結に達した(既遂説の否定)。 また、未遂説についても、あくまでも当該法益主体の法益に対する危殆化が問題となると考える以上、一旦同意がなされた場合には、未遂も成立し得ないとの帰結に達した(未遂説の否定)。 3.したがって、法益主体の自己決定権は、行為者の認識には依存しないという意味で、「犯罪成立否定効果」が絶対的であるとの理解が確証された。
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