2002 Fiscal Year Annual Research Report
国家安全保障におけるアマゾン:低強度紛争(LIC)とブラジルの新国防計画
Project/Area Number |
14720066
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Research Institution | Gifu University |
Principal Investigator |
澤田 眞治 岐阜大学, 教育学部, 助教授 (10273210)
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Keywords | ブラジル / アマゾン / 安全保障 / 軍部 / 政軍関係 / 開発 / 民主化 / 低強度紛争 |
Research Abstract |
(1)冷戦の終焉は旧来の安全保障の概念に大幅な変更をもたらしている。環境問題への関心の高まりは「環境安全保障」の概念を提起している。他方、ポスト冷戦世界に頻発する地域紛争の惨状は「人間の安全保障」の重要性を強く意識させている。さらに、非政府組織(NGO)のみならず、麻薬や武器の密輸、テロなどの犯罪組織も国境横断的な活動に従事している。これらは国境の防衛を中心とした旧来の国家安全保障の概念と軍部の役割に再定義を求めている。 (2)ブラジルでは1964年から85年までの軍事政権の時代にアマゾン開発が進められたが、その多くが入植地の開拓など経済開発を目的としていた。これはブラジル軍部が軍務として対外安全保障(外国の正規軍の侵略に対する国境防衛)のみならず、対内安全保障(左派ゲリラなどの反乱鎮圧)、さらに国力の増強(経済開発や近代化)まで担っていたことによる。しかし、軍政末期に策定されたカリャノルチ計画はアマゾン河流域の北部国境に軍事拠点を設けるなど軍事色が強かった。これはコロンビア左派ゲリラ対策と言われたが、実際には軍部が民主化後も文民政権下で既得権益を維持するためのものであった。 (3)1992年がいわゆる新大陸の「発見」500周年にあたり先住民問題が注目され、同年にリオデジャネイロで国連環境開発会議(地球サミット)が開催されたことで、世界的にアマゾンへの関心が高まった。しかし、反共主義の消滅に伴って、ブラジル軍部は領土意識を高めて、アマゾンの主権と領土と資源の防衛を強調した。それは環境破壊や先住民問題について先進国の政府やNGOが関与を深める「アマゾンの国際化」に対抗するものであった。冷戦の終焉によって、旧来の「安全保障と開発」を軸とするブラジル軍部の国家安全保障の理念は「環境か開発か」を問う国際世論によって修正を迫られたのである。
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Research Products
(2 results)
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[Publications] 澤田 眞治 著: "平和学がわかるブックガイド五十"『アエラムック:平和学がわかる』朝日新聞社. 第83巻. 156-160 (2002)
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[Publications] 澤田 眞治 ほか著: "長谷川雄一, 高杉忠明(編)『新版現代の国際政治』"ミネルヴァ書房. 422 (2002)