2002 Fiscal Year Annual Research Report
量子固体を用いた低温固相内化学反応とその圧力効果の研究
Project/Area Number |
14740336
|
Research Institution | Japan Atomic Energy Agency |
Principal Investigator |
熊田 高之 特殊法人日本原子力研究所, 先端基礎研究センター・超流動反応場研究グループ, 研究員 (00343939)
|
Keywords | ナノ粒子 / 超流動 / 量子媒体 / 量子拡散 / トンネル反応 / ESR / CARS / 極低温 |
Research Abstract |
固体中における分子の回転状態を知ることは固相内化学反応を理解する上で大変重要である。報告者は200気圧耐圧の高圧実験用石英セル及びステンレス製真空配管系を作り上げ、固体水素同位体(HD, D_2)中における酸素分子の回転を電子スピン共鳴法(ESR)を用いて調べた。実験の結果、固体水素圧力を上げるに従って捕捉された酸素分子はむしろ回転し易くなることが見出された。この結果は圧力が高くなるほど固体は密になり、捕捉された分子は回転しづらくなるという既存の概念では全く説明できない。むしろ、酸素分子を取り囲む格子の歪みが圧力をかけることに抑えられ、捕捉サイトがより等方的になったためであると考えられる。これは従来見落とされていた固体中の格子歪みが分子回転に及ぼす影響を見出すことに成功した初めての実験例である。 また、報告者はこの酸素分子の光解離により固体水素中に生成した水素原子の再結合反応速度定数が、4K以下で温度・圧力にほとんど依存しないことを実験的に確認した。この結果から固体水素中の水素原子が物理拡散ではなく、その50倍ものポテンシャル障壁を持つトンネル反応H+H_2→H_2+Hにより拡散していることを証明し、20年に及ぶ固体水素中の水素原子拡散メカニズムに対する論争に終止符を打った。 低温高圧用サンプル装置とコヒーレント反ストークスラマン分光装置を新たに立ち上げ、固体ヘリウム中における重水素分子の分光を行ったところ、従来の固体重水素の分光では見られない微分波形に似た形の歪んだ重水素の振動遷移信号を得た。解析の結果この信号は直径500nm以下のクラスターとして固体ヘリウム中に捕捉されている重水素分子のものであることが確認された。重水素のオルト・パラ混合比及び固体ヘリウム結晶作製条件を変えたところ、重水素の振動量子状態の広がりに対する結晶の均一性及びサイズの効果が顕著に表れた。
|
Research Products
(3 results)
-
[Publications] T.Kumada: "Rotation of O_2 molecules in solid D_2 and HD : An electron spin resonance study"Journal of Chemical Physics. 117. 10133-10138 (2002)
-
[Publications] T.Miyazaki, H.Fukuta, S.Hanabusa, T.Kumada, J.Kumagai: "Suppression and enhancement of tunneling ion recombination of electron bubbles in solid parahydrogen-orthohydrogen mixtures at 4.2 K. Controlling factors of tunneling reaction"Chemical Physics Letters. 360. 8-12 (2002)
-
[Publications] 中嶋暉, 植田勇人, 熊田高之, 荒殿保幸: "銅-過酸化水素系でのヒドロキシラジカル生成反応と該系における微生物の挙動"磁気共鳴と医学. 13. 47-50 (2002)