Research Abstract |
本年度は,首都圏近郊における里地自然地域の景観構造の変化を明らかにするために,里地地域の代表的な立地である丘陵地(多摩丘陵北西部)および台地(相模原台地)において,過去約100年間(1880年代から現代)の土地利用図をもとに,景観構造の変化を明らかにした。里地地域の植物相の多様性に重要な,二次林,草地,水田の減少は,1960年以降,首都圏整備計画の制定に伴い,都市的土地利用への転用によって急激に起こったことが、両地域において確認できた。水田および二次林の隣接地は,植物相の多様性を維持するために重要なエコトーンと考えられるが、丘陵地における地形改変を伴う大規模な住宅地開発によって,この立地が物理的に喪失する傾向が明らかになった。 一方,丘陵地において,微地形と植生管理が,植物相の種構成や多様性に及ぼす影響を明らかにするため,管理程度の異なる,丘陵頂部平坦面から水田の立地する谷底地までの環境傾度に沿って,林床植物の調査を行った。その結果,谷頭部においては,管理の影響以上に微地形のもたらす土壌水分状態によって,特異的な植物種が分布していることが分かった。また,上部斜面から谷壁斜面においては,管理程度の違いによって,大きく種組成の変化がみられ,微地形の違い以上に植物種の多様性を維持する要因であることが分かった。上記の景観構造の変化でも述べた,二次林と水田の隣接部における下部谷壁斜面では,水田への被陰を回避するために,木本類の伐採と年2回程度の草刈りが行われており,一年生草本を中心に,湿潤な立地を好む種と,湿性な立地を好む種が生育していることが分かり,他の微地形単位に比べ,単位面積あたりの種数は有意に高く,丘陵地に位置する里地地域において,植物相の多様性を維持する重要な立地であることが示唆された。
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