Research Abstract |
ヤマトシジミの餌資源を特定することは,資源管理,水質環境保全の両面から意義深いものと考えられる.最近の研究により,河口域に生息するヤマトシジミはあまり餌の選択を行わず,上流側に生息する個体ほど陸上有機物を多く同化することが明らかとなっている.しかし汽水湖に生息するヤマトシジミの食性についてはよく分かっていない.本研究では,小川原湖,十三湖,宍道湖のヤマトシジミの餌資源を安定同位体比分析から推定し,河川棲のヤマトシジミと比較した. 観測は,2004年7月16〜21日,7月21〜25日,8月2〜5日にそれぞれ小川原湖,十三湖,宍道湖で行った.湖内の複数点においてヤマトシジミと水を採取し,水温,塩分,クロロフィル濃度の測定を行った.そして,採取したヤマトシジミ,底生珪藻と水中の粒状有機物について安定同位体比分析を行った. 得られたヤマトシジミの同位体比について判別分析を行った結果,小川原湖,十三湖は大きく2つのグループに分けられ,宍道湖は3つのグループに分けられた.いずれの湖においても,流入河川に近いヤマトシジミほど同位体比が低くなり,特に十三湖ではその傾向が顕著であった.同位体比を基にヤマトシジミの餌資源の寄与率を求めたところ,十三湖の一部を除いて植物プランクトンの寄与率が6割以上と高かった.クロロフィル濃度は,小川原湖と宍道湖では流入河川より明らかに高かったが,十三湖では河川とほぼ同程度であった.また,塩分から河川水の平均滞留時間を見積もると,小川原湖で366日,十三湖で2日,宍道湖で87日となった.すなわち十三湖では,河口域同様水の入れ替わりが速く植物プランクトンの生産がおさえられているため,ヤマトシジミは陸上有機物を多く摂取せざるを得ない.一方,小川原湖や十三湖では水が滞留することで植物プランクトンが豊富に発生し,それがヤマトシジミの餌資源となっていると考えられる.
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