2015 Fiscal Year Annual Research Report
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14F04364
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
塩見 淳一郎 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (40451786)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
HUNG SHIH-WEI 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 外国人特別研究員
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 動的濡れ性 / 分子動力学 / ナノ表面構造 / 界面熱抵抗 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度構築したシミュレーションモデルを用いて,液滴の動的濡れ現象や界面の熱輸送の分子動力学解析を行った.グラフェンや自己組織化単分子膜などの原子レベルの滑面に加えて,ナノスケールの構造を有する表面を取扱い,スリップや界面摩擦の動的な濡れ半径や速度に与える影響を検証した.銅の表面に1~3層のグラフェンを設置し,グラフェンを部分的に除去する(欠陥または細孔を設ける)ことで,ナノ構造表面のモデル系を作成した.本系は,実際に実験で作製し得るナノ構造であることに加えて,作業流体を水とした場合,銅表面は親水性で,グラフェンは撥水性であるため,グラフェンの層数を変化させることにより,濡れ性を広域で制御できるメリットもある.これに対して,液滴を滴下して,濡れ半径の時間履歴を得る非定常計算や,液滴を2つの向かい合う固体面に液滴を挟み(液柱),クエット流のように固体面を動かす定常計算を行った.その結果,濡れ初期においては,液滴の動的濡れ挙動が慣性力によって支配されるため,濡れ速度はナノ構造の形状に依存しないことが明らかになった.一方,ある臨界時間を過ぎると,濡れ速度はナノ構造の形状に大きく依存し,ナノ構造形状によってはピニングの影響によって間欠的な挙動を示すこともわかり,慣性スケーリングによって,無時限臨界時間を同定した.一方で,自己組織化単分子膜(SAM)で金を被覆した系においては,前年度の界面熱輸送の計算をさらに発展させて,SAMと水の界面熱コンダクタンス(TBC)の濡れ性依存性および温度依存性を検証した.SAMの終端基を親水性にした場合はTBCは温度に依存しないが,撥水性とした場合は温度に強く依存することが明らかになった.そのメカニズムを明らかにするべく,界面近傍の水の層構造や分子振動の状態密度の変化や異方性を評価した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り,ナノスケールの動的濡れ性現象や界面熱輸送のメカニズムの検証や,制御性の評価が進んでいる.
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Strategy for Future Research Activity |
前年度までに見出した,現象のメカニズムを同定し,その制御性を明らかにする.ナノ構造化グラフェンの上の動的濡れ性に関しては,連続体計算との比較を通じて,現象を支配する物理を明らかにする.そのために,フェーズフィールド法による界面モデルにもとづいて,ナビエストークス方程式とカーンヒリアード方程式をカップルして解き,固液界面の境界条件に,壁面スリップや接触線摩擦係数を導入する.壁面スリップは別途,クエット流の分子動力学(MD)シミュレーションから計算することで連続体計算への入力とし,連続体計算で得られた濡れ半径や液滴形状の時系列が,MD計算のそれと合うように,接触線摩擦係数を調整することで,接触線摩擦係数を同定する.表面張力,粘性,液滴径などの物性値と合わせて無次元Ohnesorge数で整理することによって,接触線摩擦散逸,慣性力,粘性散逸,うちで支配的な物理を同定し,濡れ速度にナノ構造が影響しない濡れ初期から,ナノ構造に強く影響されるその後への遷移のメカニズムを説明する.また,それを通じて,ナノ構造による動的濡れ性の制御性について指針を示す.一方,自己組織化単分子膜と水の界面の熱輸送に関しては,撥水性の終端基で見られた強い温度依存性のメカニズムを明らかにする.前年度に得られた界面近傍での構造因子や振動スペクトルの分布や異方性をもとに,フォノンまたはバイブロンの輸送の描像から,周波数に依存したスペクトル熱伝導を考察する.また,SAM内の原子間力定数を変化させ,温度依存性への影響を摂動論的に調べることで,構造や濡れ性との因果関係を同定する.これらを通じて,自己組織化単分子膜による表面修飾を通じた,界面熱コンダクタンスの制御性を明らかにする.
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