2015 Fiscal Year Annual Research Report
生体応用を指向した低酸素環境検出蛍光プローブの開発
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14J00053
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
髙橋 翔大 東京大学, 薬学(系), 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 蛍光プローブ / 低酸素環境 / がん検出 / 炭酸脱水素酵素IX |
Outline of Annual Research Achievements |
低酸素環境はがんなど様々な疾患との関連が報告されており、低酸素環境を検出することはそのような病態の理解において重要である。炭酸脱水素酵素IX(CA IX)は低酸素環境下において細胞膜上での発現が亢進するタンパク質の一つである。がん細胞周辺のpHを低下させることによりがんの浸潤の促進、成長因子の誘導、プロテアーゼの活性化を行なうなどの作用を示し、低酸素環境のマーカーの一つとして広く知られている。これまで生物学研究においてCA IXは主に免疫染色によって検出されていたため、生きたサンプルでその発現を検出することは困難であった。一方、このタンパク質を認識して蛍光がoffからonへと変化する蛍光プローブを開発することで、生きたまま簡便に低酸素環境部位を可視化することが可能となるため、CA IXを検出する蛍光プローブの開発を行うこととした。 一般に、キサンテン系蛍光色素の窒素原子に芳香環が直接結合した化合物は無蛍光性であることが報告されており、これは分子内回転が起こることに起因すると考えられている。そこで本研究では、分子内回転の制御による蛍光変化を選択的なタンパク質の可視化へと応用することを目指した。具体的には、蛍光団に直結する窒素原子に芳香環を導入し、同一分子内にさらにCA IXに対するリガンド部位を組み込む分子設計を行った。リガンド部位を介した標的タンパク質との結合によって芳香環部位の分子内回転が抑制され、蛍光が回復することを期待した。CA IXの酵素反応には二酸化炭素の代謝以外に、蛍光プローブの分子設計に有用な化学反応が知られていないため、このようにタンパク質への結合を用いた蛍光制御法を用いることとした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
昨年度は、合成展開のしやすいロドール骨格を蛍光団の母核として用いた。合成した蛍光プローブ郡BnSARhodol類の中から、CA IX精製タンパク質結合時に10倍以上の大きい蛍光上昇を示す蛍光プローブを見出すことに成功した。ところが、BnSARhodol類はいずれもCA IX精製タンパク質結合時の蛍光量子収率が5 %程度であり、蛍光イメージングで用いるためには蛍光量子収率が不足していた。そこで、より高い蛍光量子収率を示す蛍光プローブの探索のため、蛍光団をロドール骨格から変換した化合物を合成し、その光学特性を調べた。 具体的には、ロドール骨格の10位酸素原子をケイ素原子に置換したSiロドール骨格、ロドール骨格のフェノール基をアミノ基に置換したローダミン骨格、ローダミン骨格の10位酸素原子をケイ素原子に置換したSiローダミン骨格を蛍光団として選択した。これらの化合物の光学特性を調べたところ、ロドール骨格とローダミン骨格の間に大きな違いは見られなかった。一方、CA IX結合時の蛍光特性について、ロドール骨格よりもSiロドール骨格の方が10倍程度高い蛍光量子収率を示し、ローダミン骨格よりもSiローダミン骨格の方が数倍高い蛍光量子収率を示すことが明らかとった。以上より、10位をケイ素に置換した骨格は、本分子設計において、CA IX結合時により高い蛍光量子収率を示し、蛍光団の母核として有望であることを見出した。
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Strategy for Future Research Activity |
炭酸脱水素酵素IX検出蛍光プローブの設計に適した蛍光団を見出すことに成功したため、その蛍光団を用いて、より高い感度で低酸素環境を検出可能な蛍光プローブを設計・合成し、生物学研究に応用していく。具体的には、Siロドール骨格やSiローダミン骨格を蛍光団とした蛍光プローブを合成し、蛍光量子収率が上昇したことによってより感度良く低酸素環境を検出可能かどうか、生細胞イメージングを用いて検討を行う予定である。また、昨年まで用いていたロドール骨格は励起・蛍光波長が可視光領域のため自家蛍光の高さ、光の組織透過性の低さなどの問題があり、動物モデルに適用することは困難だった。一方で、Siロドール骨格やSiローダミン骨格はより長波長の励起・蛍光波長を持つ近赤外蛍光色素であるため、その特性である自家蛍光の低さ、光の組織透過性の高さを利用し、in vivo低酸素モデルでのイメージングも試みたいと考えている。例えば、多くの腫瘍においてはがん細胞の増殖に対して血管新生が追いつかず、低酸素状態となっていることが報告されているため、様々ながんモデルマウスに対しCA IX検出蛍光プローブを投与し、どのようながんを検出できるか検討を行い、がんの診断への応用の可能性を精査していきたい。また、がんの根治を困難にする原因の1つと考えられているがん幹細胞においてCA IXの発現が認められるという報告がある。CA IX検出蛍光プローブの蛍光強度を指標に、薬物のがん幹細胞に対する作用を評価し、がんの根治を目標とした薬物のスクリーニングなどにも応用できると考えている。
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Research Products
(4 results)