2015 Fiscal Year Annual Research Report
近世初期の堂上における『万葉集』受容の文献学的研究
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14J00178
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
大石 真由香 関西大学, 文学部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 万葉集 / 禁裏御本 / 陽明文庫 / 藤原惺窩 / 惺窩校正本 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、『万葉集』の受容の様相について、地下歌壇において本格的な『万葉集』研究の始まる近世初期に目を向け、この時期の堂上歌壇における『万葉集』の書写活動のありようを中心に検討するものである。そして、地下における『万葉集』研究と、堂上における『万葉集』の書写・利用という双方の動きがどのように影響し合い、一時代の『万葉集』受容の様相を形作っているかを明らかにすることを目指す。本年度は、次の二つの点について研究を進めた。 Ⅰ、陽明文庫所蔵「古活字本万葉集」禁裏御本書入の調査 本年度は十冊二十巻のうち、巻十一~十四および巻十八~二十の調査を行った(巻一~十および巻十七の調査は前年度までに終了)。さらに、禁裏御本訓のデータベース化に向けてアルバイトを雇用し、『校本万葉集』を用いた諸本の訓の異同の調査、エクセル入力を進めている。これまでの調査から、禁裏御本訓と見られる当該本の紫訓は、校合本の指示記号をもとにして清書するように書き入れられることで寛元本の姿を再現していること、その中に諸本にない独自訓が存在することが知られた。 Ⅱ、惺窩校正本『万葉集』についての調査・検討 惺窩校正本『万葉集』の一本である前田家一本(尊経閣文庫所蔵)について、本年度の経費で複写物を得た。当該本は、惺窩校正本の完本四本のうち、最も古い形態を留めた本である。当該本を中心として惺窩校正本の内容を精査し、その成立過程、およびその底本と本文校訂の態度について明らかにした。また、歌本文に大幅な改変が行われている巻五・800歌については特に取り上げて検討を加えた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「Ⅰ、陽明文庫所蔵「古活字本万葉集」禁裏御本書入の調査」については、前年度に全巻の画像データを得たことで本年度の調査効率が上がり、全巻調査は残り二巻を残すのみである。そして、これまでの調査から、禁裏御本訓と見られる紫訓の性質についても明らかになりつつある。さらに、禁裏御本訓のデータベース化に向けての諸本調査・入力作業も進展している。 一方、「Ⅱ、惺窩校正本『万葉集』についての調査・検討」については、現存完本四本の成立過程について検討する中で、底本となった『万葉集』の系統をも明らかにすることができた。また、「研究成果公開促進費」の内定を得て、本年度までの研究成果を次年度に学術図書として刊行することになった。 以上のことから、「おおむね順調に進展している」と判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は陽明文庫所蔵「古活字本万葉集」書入の全巻調査を完了し、書入の内容の精査を行う。そして、禁裏御本訓の性質について明らかにする。 一方、惺窩校正本については学術図書の刊行に向けて、これまでの調査内容の確認と再検討を行う。
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Research Products
(6 results)