2014 Fiscal Year Annual Research Report
運動麻痺患者を対象としたブレイン-マシンインタフェース型リハビリシステムの構築
Project/Area Number |
14J00320
|
Research Institution | University of Hyogo |
Principal Investigator |
中谷 真太朗 兵庫県立大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
|
Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
|
Keywords | ブレイン―マシン インターフェース / 時系列信号処理 / 脳機能計測 |
Outline of Annual Research Achievements |
はじめに,麻痺患者の動作企図の検出に用いている信号の詳細を確認するため,近赤外スペクトロスコピー装置(fNIRS)による脳活動計測を行った.この装置は空間的な解像度に優れているとされ,計測結果からは健常者が足漕ぎ動作を実際に行った際の脳活動と,脊髄損傷により下肢が完全に麻痺した患者さんが足を動かそうとした際の脳活動を比較した.その結果,健常者3人では頭頂部に強い反応が見られた.また,患者さんでは左側頭部から前頭部にかけて弱い反応があった.また,麻痺患者が足漕ぎ動作を企図している際に足漕ぎ動作を行っている映像を見ることで,頭頂部付近の脳活動が強化されることも明らかになった. つぎに,脳波からリアルタイムに動作・停止を識別する際,これまでは各時刻における各電極から得られた周波数強度を利用した識別を行っていたため,突発的に生じるノイズに対して対応できず識別性能が低かった.そこでノイズ耐性を強化する目的で特徴量の時空間情報を利用する識別手法について提案した.この手法は空間的な平滑化パラメータと時間的な平滑化パラメータを逐次最小二乗法によって同時に学習できるため,全体の平滑化を進めながら時間的な平滑化によって生じる時間遅れを最小化することができる.この手法により,健常者の脳波から動作状態を識別する際の識別性能が向上することを確認した. さらに,リハビリ装置のプロトタイプとして製作していた自転車こぎ型の据え置き運動装置を用いて,下肢に運動麻痺を生じた患者さんに対する実証実験を行った.その結果,足を強制的に回転させることで患者さんの足にふるえが生じさせてしまう場合があった.そこで被験者にとらせる運動を従来の自転車エルゴメータ式から,幼児向け玩具であるペダルカーをモチーフにした足踏み式に変更することとし,足踏み式の運動装置を新規に製作した.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は,当初掲げた3つの目的のうち「下肢運動麻痺患者の運動企図取得」と「識別率向上」に関しては期待通り進展した. 下肢運動麻痺患者の運動企図取得に関しては,これまで脳活動の計測に用いていたEEGに加えて脳表の血流量変化を計測できる近赤外スペクトロスコピー装置(NIRS)を用いた.その結果,健常者の運動時と患者さんの運動企図時の脳活動の類似点と相違点が確認できた.この結果は,英文誌のSICE Journal of Control, Measurement, and System Integration に掲載された.また,識別率向上に関しては,これまでの単純な線形判別手法に時間的な平滑化要素を加え,平滑化のパラメータを最適化することで耐雑音性能を上げつつ時間遅れの影響を最小化する手法を開発した.この結果は国際会議 International Symposium on Advanced Control of Industrial Processes 2015 にて発表した. もう1つの目標である「識別クラス数の増加」に関しても,すでに足こぎ速度に応じた脳活動変化を捉えることができており,基本的な識別手法を適用することである程度の識別クラス数の増加が可能であると期待されるため,全体としておおむね順調に研究が進展していると考えている.
|
Strategy for Future Research Activity |
脊髄損傷の患者さんを対象とした実験を行った結果,事前準備や事後処理の観点から臨床の現場において脳波の計測を行うには従来のような頭皮にペーストをつけるタイプの電極ではなく,ドライ電極と呼ばれるペーストを付けずに済むタイプの電極を用いる必要性が感じられた.そのため,ドライ電極によって脳波を計測し,これまでと同様のアルゴリズムを用いた動作企図の識別が可能か検証を行っている.しかしながらこれまでのところ,我々が動作企図の識別に利用している20 Hz 近辺のβ波帯域の強度は信号強度が弱く,うまく識別を行うことができなていない.そこでドライ電極の電極の先にジェル状の導電性物質を取り付けたセミドライタイプの電極を用いることで動作識別を行うことを検討している. また,患者さんの足を動作させるために製作した足踏み式装置は,金属製のギアを利用しており動作時に比較的大きな騒音が発生する.今後,装置の静音化のためにギアヘッドを遊星ギアからハーモニックドライブに変更し,動力伝達もタイミングベルト駆動に変更する予定である. また,運動企図に応じて脳波の信号特性が変化することから,現在のシステムでは識別のための学習データを十数分ごとに手動で更新する必要がある.そこで,信号の特性の変化を踏まえて識別則を自動で更新することができる,オンライン学習型の識別手法についても検討を行っている.この手法は,従来のオンライン学習則で一般的な動作識別の結果を用いた学習則の更新ではなく,識別に用いたデータが持つデータ構造に着目した半教師付き学習法による学習則の更新を行うことを目指しており,ロバスト性の高い識別則を構築できると期待している.
|
Research Products
(5 results)