2014 Fiscal Year Annual Research Report
難治性疾患患者の困難と診断の諸効果の解明--医療化論の再考に向けて
Project/Area Number |
14J00416
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
野島 那津子 大阪大学, 人間科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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Keywords | 医療化 / 診断の社会学 / 慢性疲労症候群/筋痛性脳脊髄炎 / 線維筋痛症 / 難病 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、十分に医療化されていない難治性疾患患者の困難および診断が当事者の生活に与える影響を解明し、医療化論の再考に向けた視点を提示することである。そのために今年度は、以下の研究を実施した。
(1)慢性疲労症候群/筋痛性脳脊髄炎および線維筋痛症を対象に、患者15名にインタビュー調査を行った。今年度は、データ間の共通点について詳細な検討を加えるべく、グラウンデッド・セオリー法を用いて分析を行った。その結果、次のことが明らかになった。①病気の地位が確立していないために、患者の病気行動は複雑化し、安定的な患者役割を担うことができず、患者は患者として病む権利を得るため自ら活動的になって自立的患者役割を担う。②自責の念からの解放、患いの正当化、具体的な情報へのアクセス、アイデンティティの再構築、集合的アイデンティティの獲得を可能にするなど、病名診断は患者にポジティブに影響する。③しかしその病名は、深刻な病気ではない、あるいは病気ですらないものとして患者の周囲の人間に認識される場合がある。つまり、病名が病気の不在を表すという「診断のパラドクス」が患者と周囲の人間の間に生じている。
(2)診断の諸効果に関する文献を系統的に収集し、診断という出来事に与えられてきた評価・解釈について批判的検討を行った。これまで診断は、医療化論、医師‐患者関係、病いの語り研究など、各議論の中で二次的に言及されてきた。これらの議論に共通するのは、診断は「上からのラベリング」であって、患者は受動的にしか診断という出来事を経験しないという診断理解である。しかし、疑義の呈された病や自閉症などにおいては、患者は診断名を引き受けた上で自律的に行動し、さらにはラベル自体の意味変容を可能にする「下からのラベリング」が生じている。このことから、病名診断の意味内容は、必ずしも医療/医学のみに依拠しているのではないと言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
慢性疲労症候群/筋痛性脳脊髄炎および線維筋痛性患者へのインタビュー調査に関して、予定していた人数への聴き取りがほぼ終了している。また、データ間に共通する問題について分析が進んでおり、上記の論点について国際学会で報告を行った。学会では、「診断のパラドクス」はこれまで指摘されていない論点であり、重要な検討課題であるとの高い評価を得た。以上より、特に分析において当初の計画以上の成果を得ることができたと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
研究の最終年度となる次年度は、上記の「診断のパラドクス」について論文を投稿するとともに、他の分析結果についても発表の機会を増やす。また、病いの語り研究を参照しながら、データの個別性についても分析を行い、医療化が個人に与える影響の大きさについて、個々人の異なりとその背景を明らかにする。
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Research Products
(3 results)