2014 Fiscal Year Annual Research Report
協力努力の連合様式と協力の進化動態とをつなぐ一般的法則性の理論的解明
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14J00472
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
伊藤 公一 京都大学, 生態学研究センター, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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Keywords | 協力の進化 / ゲーム理論 / 行動時のリアクション / 国際情報交換 |
Outline of Annual Research Achievements |
協力行動は、生物において幅広く見られる現象であるが、その進化動態については現在まで十分に解明されていない。特に、各個体の協力への投資量やその利益が決定されるプロセスは、協力の行われるメカニズムによって大きく異なるが、このような協力様式の違いが協力の進化に与える影響については、解明されていない。本年度は、協力様式の違いが協力の進化に与える影響についての一般的法則を明らかにするために、2つの側面から協力の進化動態の解析を行った。 一つは、個体の投資がグループの利益に変換されるプロセスに注目した研究である。私は、これまでの研究で、各個体の協力への投資が利益に変わるプロセスの違いが、協力における多型の進化や共存の可能性を大きく左右することを明らかにした。本年度は、これらの研究成果についての結果をまとめて学術論文の執筆を進め、Journal of Theoretical Biologyにおいて発表した。 もう一つは、協力における意思決定様式の進化に注目した研究である。従来の協力モデルでは、相手の振る舞いに応じて自身の戦略を変えることができない状況が仮定されてきた。しかし、自然界でみられる協力では、相手の協力への投資量に応じて自身の投資量を変えるような例がしばしば報告されている。このような、相手に対する応答が可能な場合の協力の意思決定様式の進化について、Bristol大学のJohn McNamara氏、Andrew Higginson氏と共同して研究を進めた。結果、協力における意思決定様式の進化は、協力の利益を決める関数の凹凸によって大きく変わることを明らかにした。また、相手に対する応答の有無自体が、協力の進化動態を大きく変えうる重要なファクターであることを明らかにした。これらの成果については、国際学会である日米数理生物学会合同大会、およびその他国内外の学会にて発表した。学術論文についても執筆を進め、現在投稿直前である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は、協力努力の連合様式と協力レベルの多型の出現可能性についての学術論文を発表するとともに、新たにスタートさせたBristol大学のJohn McNamara氏、Andrew Higginson氏との協力時の意思決定様式の進化についての研究でも成果を上げ、国内外の学会で成果を報告するとともに、現在学術論文についても執筆を進め、投稿直前の段階である。 また、John McNamara氏、Andrew Higginson氏とは、さらにこれまでの研究テーマを発展させ、協力の意思決定が行われるメカニズムの違いが、実際に協力的相互作用を持つグループという協力の基盤の形成にもたらす影響についても、現在共著者と相談をしながら研究を進めている段階である。 さらに、本年度は、イギリスのブリストル大学、スウェーデンのストックホルム大学、台湾の国立東華大学で行われた学術シンポジウムに参加して発表するなど、国際的な学術交流を進めるとともに、研究分野についての情報収集を積極的に行った。特にストックホルム大学については、来年度も再度訪問し、研究テーマについてより議論を深める予定である。 このように、当初の計画での初年度の成果は十分達成されているだけでなく、成果を受けてより発展的なテーマでの共同研究をスタートがするなど、予定以上に研究が進捗しているといえる。以上のことから、本研究課題については、当初の計画以上に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度については、現在執筆中の協力における意思決定様式の進化についての学術論文について共著者と相談しつつ執筆を進め、早い時期に投稿する予定である。 今後の研究については、協力様式について2つの側面に注目して研究を進める予定である。一つは、連合様式が協力の進化動態に及ぼす影響について、更なる解析を行う。協力関係における二つの連合様式、すなわち「投資の連合」と「効果の連合」が同時に作用する場合における協力の進化動態を、解析的手法とシミュレーションを用いて解析する。連続的スノードリフト・ゲームの枠組みに適応的ダイナミクスの解析手法を適用することで解析し、二つの連合様式が同時に作用する状況下での協力レベルの多型の出現条件を解明する予定である。 もう一つは、John McNamara氏、Andrew Higginson氏と共同で進めつつある新たな研究テーマである。協力の意思決定は、これまで相手の協力への投資量に注目したものが多かったが、実際の生物では投資量だけでなく、周囲の個体数に応じて協力時の振る舞いを変える例がしばしば報告されている。こうした、個体数に対する応答は、そもそも力的相互作用の基板となるグループの形成を行うかどうか、という部分の進化まで含めて、包括的に解析する必要がある。イギリスを訪問して共同研究者と議論を進めながら、このような協力時の意思決定における情報源の違いと、それがグループの形成にもたらす影響について、数理モデルを構築して解析を進める予定である。
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Research Products
(9 results)