2014 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
14J00517
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
温 都蘇 大阪大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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Keywords | 無機顔料 / 環境調和型 / 赤色 / カルシウムビスマス複合酸化物 / バナジン酸ビスマス / 斜方晶系 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、環境や人体に対して一切無害であり、かつ、塗料、化粧品、セラミックス、路面標識、ガラス、プラスチックなどといった幅広い用途に適した新規な環境調和型無機顔料の合成、及び合成した顔料の発色機構の解明を目指したものである。 平成26年度は、新規な環境調和型の赤色無機顔料について研究を行った。その際、環境や人体に対して無害な元素から構成される固体化合物であるカルシウムビスマス複合酸化物(Ca3Bi8O15)及び斜方晶系のバナジン酸ビスマス(Bi4V2O11)を、新しい顔料母体として考案した。 Ca3Bi8O15を母体とした顔料に関しては、そのBi3+イオンサイトを、よりイオン半径が小さい他のイオンで部分置換した試料を合成した。赤色度が最大となるように、組成及び焼成条件の最適化を行った結果、大気中800℃、2時間の焼成を3回行ったCa3(Bi0.93Y0.07)8O15試料の赤色度(+30.6)が最大となることがわかった。この値は、市販の赤色無機顔料である酸化鉄(Fe2O3)の赤色度(+29.5)を上回った。 さらに、より鮮やかな赤色を呈する新規顔料の開発を目指し、過去に行った単斜晶系のバナジン酸ビスマス(BiVO4)を母体とした黄色顔料に関する研究成果を踏まえ、新しい顔料母体として斜方晶系のBi4V2O11に着目した。焼成雰囲気や組成を変えることで、結晶格子内における酸化物イオン欠陥の量やバンド構造を調節した結果、 (Bi0.92Zr0.07Al0.01)4V2O11.34試料の赤色度(+41.9)が最大となり、市販の赤色無機顔料である酸化鉄(Fe2O3)の赤色度(+28.9)を大きく凌いだ。 これら平成26年度の研究結果より、無害な元素のみから構成されているうえ、既存顔料を上回る彩度を有する新規な無機顔料の合成に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成26年度(1年目)では、至急の開発が望まれている赤色無機顔料について、新規な材料の開発を目指し、無害な固体化合物であるカルシウムビスマス複合酸化物及び斜方晶系のバナジン酸ビスマスに着目した。これらの二つの化合物について、格子サイズ、バンド構造、焼成条件などの詳細な検討を行った結果、市販赤色無機顔料の一つである酸化鉄を凌ぐ高い赤色度を有する新規な無機顔料の合成に成功した。特に、斜方晶系のバナジン酸ビスマスを母体とした顔料においては、市販の酸化鉄を大きく凌ぐ高い赤色度を実現した。 研究成果としては、学術雑誌に、論文を1報掲載し、現在も1報投稿中である。また、国内における研究発表を4件(うち英語1件)行った。 上記のように、平成26年度は、申請書に挙げた1年目の年次計画をおおむね達成している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、平成26年度(1年目)の研究によって開発した顔料の発色機構を詳細に検討した上、さらに高い彩度を示す新規な無機顔料の開発を目指す。 具体的には、まず、1年目の研究で開発した無機顔料について、その発色機構を解明する。各顔料の粉末X線回折測定の結果をもとに、リートベルト解析を行うことで、個々の結晶構造の精密化を試みる。また、密度汎関数法などのバンド構造計算を取り入れることで、個々の顔料における発色機構を解明し、固体の電子構造と発色の関連性を明らかにする。さらに、合成した顔料の粒子形状や大きさとその色彩との関係も明らかにする。 このように、得られた知見を常にフィードバックすることで、従来の有害な無機顔料の色彩を凌ぐ、新規な環境調和型の無機顔料を開発する。
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