2014 Fiscal Year Annual Research Report
生体分子・金属錯体と半導体ナノ粒子間の階層的電子伝達を介した複合型光触媒系構築
Project/Area Number |
14J00676
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
氷見山 幹基 大阪大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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Keywords | タンパク質 / 金属錯体 / 半導体ナノ粒子 / 酸化還元反応 |
Outline of Annual Research Achievements |
半導体ナノ粒子(QD)は、発光量子収率の高さや可変な酸化還元特性、表面物性により多分野への応用が期待される材料である。QDとタンパク質を用いた光触媒系において、より高い触媒活性を実現するためには、補因子への選択的な電子移動系の構築が望まれる。そこで、高効率の光電子移動反応によるタンパク質の機能発現が可能な系を構築するために、補因子をQDの近傍に配置したタンパク質の超分子的複合化方法の確立を行った。アダマンチル基を有するヘムをアポミオグロビンに挿入することでアダマンタン部位を有するミオグロビン(ADM-Mb)を調製した。チオール化シクロデキストリン(CD-SH)で保護されたCdTe QD(CD-CdTe)を合成した。光照射実験により、ADM-MbはnMbに比べ、電子移動反応速度定数が13倍に向上することが明らかとなり、超分子複合体の形成が電子移動反応に有効であることが示された。本研究内容はChemistry Letters誌に採録された。 あわせて、CdTe QDと組み合わせて用いる人工生体触媒の調製に取り組んだ。本研究では剛直なバレル構造を有するニトロバインディン(NB)をタンパク質骨格として選択し、種々の金属錯体導入による人工生体触媒の調製を試みた。配位子にマレイミド基を有するイリジウム錯体を2種合成し、システイン残基とマレイミド基のカップリング反応により複合化を行った。また、異なるリンカー長のマレイミド基を有する3種のテルピリジン配位子および2種のフェナントロリン配位子を合成し、NBと複合化した。複合体の形成はMALDI-TOF MS、CDスペクトル測定、紫外可視吸収測定により確認された。現在、触媒反応の活性・選択性について検証中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
シクロデキストリンで表面修飾したCdTe半導体ナノ粒子(QD)とアダマンチル基を導入したミオグロビンを利用した超分子複合体の創成により、超分子複合体の形成に伴うCdTe QDからミオグロビンへの電子移動反応速度の向上を達成した。本研究成果はChemistry Letters誌に採録された。また、当初の計画通り、フェロセニル基を電子メディエーター部位として導入した人工ヘムの合成に着手している。さらに、CdTe QDと組み合わせて用いる人工生体触媒の調製に取り組んだ。ニトロバインディン(NB)をタンパク質骨格として有する人工生体触媒を、酸化還元可能な種々の金属錯体を導入することにより調製した。配位子にマレイミド基を有するイリジウム錯体を2種合成し、システイン残基とマレイミド基のカップリング反応により複合化を行った。また、異なるリンカー長のマレイミド基を有する3種のテルピリジン配位子および2種のフェナントロリン配位子を合成し、NBと複合化した。現在、テルピリジン配位子とフェナントロリン配位子について、配位可能な金属種を調査しており、少なくとも銅イオンを結合可能であることが判明している。これらの人工生体触媒を利用した触媒反応の検討を進めている 以上のように、本研究課題の実施によってQDからヘムタンパク質への効率的な光電子移動反応と、様々な金属錯体を内包する人工生体触媒の構築が可能となった。これらの研究成果をもとに1報の論文を報告しており、本研究課題はおおむね順調に進展したと判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の実施によって、効率的な光電子移動反応を実現する、CdTe半導体ナノ粒子(QD)とミオグロビンの超分子複合体調製に成功した。今後はメディエーター部位としてフェロセニル基を導入したミオグロビンを調製し、シクロデキストリン修飾したCdTe QDと組み合わせることで、電子移動反応効率を大幅に向上した超分子複合体形成が期待される。また、西洋わさびペルオキシダーゼに同様のフェロセニル基修飾ヘム分子を導入し、CdTe QDとの複合化を実施することで、効率的な電子移動反応により酸素と反応してヒドロキシルラジカルを発生する光酸化反応触媒系の構築に発展できる。ニトロバインディン(NB)に金属テルピリジン錯体およびフェナントロリン錯体を導入した人工生体触媒についても、CdTe QDと組み合わせて利用することにより、光電子移動反応を利用した触媒系構築への応用が考えられる。具体的には、Mn、Feテルピリジン錯体を用いた酸化反応、Ptテルピリジン錯体を用いた水素発生反応、Irフェナントロリン錯体を用いた水素添加反応への展開が期待される。タンパク質骨格への変異導入によって、金属錯体周辺の構造を最適化することで反応速度向上や立体選択的反応への展開が可能となる。また、これらの人工生体触媒に関しても、合成化学的にメディエーター部位を導入することで電子移動反応効率化を見込むことができる。人工生体触媒と組み合わせるQDの組成を、CdTeからCdSe、CdSに変更することで、酸化還元準位の最適化に基づく触媒能の向上が期待できる。 以上のように、メディエーター部位の有効利用と、生体触媒・ナノ粒子の最適化によって、反応効率の向上と反応適応範囲の拡大が今後の推進方策として挙げられる。
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