2014 Fiscal Year Annual Research Report
マダガスカル産大型種子植物の繁殖成功における霊長類種子散布の有効性
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14J00699
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
佐藤 宏樹 京都大学, 霊長類研究所, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 遺伝子流動 / 種子散布 / ラジオテレメトリー |
Outline of Annual Research Achievements |
1.遺伝子流動検出プロットの設置:大型種子樹木3種の霊長類種子散布による遺伝子流動を把握するため、11月下旬から3月初旬にかけてマダガスカル北西部アンカラファンツィカ国立公園にて生態調査を行った。森林調査区画の中心に9haプロットを設置し、チャイロキツネザルに種子散布を頼る大型種子植物のうち、雨季結実植物Protorhus deflexaと乾季結実植物Astrotrichilia asterotricha, Vitex beraviensis の成木個体を対象に花の形態分析と結実状況の確認によって花粉および種子ソースを明らかにした。さらに9haプロット中央に4haプロットを設置し、25m間隔で5m四方コドラートを81区画設置した。9haプロット内の成木およびコドラート内の実生と苗木のDNA試料を採集し、マダガスカル政府が発行する輸出許可証に基づいて京都大学霊長類研究所に持ち帰った。
2.チャイロキツネザルの捕獲と人付け:大型種子樹種3種の主要な種子散布者となるチャイロキツネザルの追跡観察を行うため、9haプロットを遊動する2群のメス3個体捕獲し、発信機付首輪を装着した。これによりラジオテレメトリーによる群れの定位が可能になったため、1か月間人付けを行った。また、遊動域も把握し、1つの群れは9haプロットを頻繁に遊動することが確認された。平成27年度の長期調査に向け、チャイロキツネザルの遊動パターンと樹木の種子散布による遺伝子流動パターンの比較を同エリア内で行うことができるシステムを完成させた。
3.研究成果発表:チャイロキツネザルの種子散布機能に関する研究成果をまとめ、日本アフリカ学会で発表した。これまでのチャイロキツネザルによる種子散布の関する研究業績が評価され、日本アフリカ学会及び日本霊長類学会において研究奨励賞を受賞した。日本霊長類学会では受賞記念講演を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1.野外調査の状況:9haプロットは平成26年度から対象樹種の更新状況を調べる別の研究でも並行して使用しており、本研究に必要な3種種のDNA試料の採集はスムーズに行うことができた。また、捕獲した群れの遊動パターンと実生用コドラートの実生出現状況から、多くの種子がチャイロキツネザルによる種子散布によって運ばれてきた種子であることが示唆される。次年度の長期間の野外調査に向けて、植物の遺伝子流動に対するチャイロキツネザルの種子散布効果を定量化するためのシステムが順調に準備できたといえる。
2.研究成果発表の状況:欧米の研究者らからの要請を受けて進めている、各地のチャイロキツネザル属(Eulemur属)個体群を対象とした食性パターンのメタ解析は、研究代表者の発案によって、採食戦略が異なると考えられるシファカ属との比較を基盤として進めることになった。シファカ属の研究者らとも情報を共有しながらメタ解析を進め、エネルギー摂取量を最大化する果実食者のEulemur属とエネルギー消費量を最小化する葉食者のシファカ属との戦略の違いを明確化することに成功した。論文の執筆も最終段階に来ており、次年度中での公表が期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
1.チャイロキツネザルの種子散布活動の追跡観察:平成27年度は5月下旬からマダガスカルに渡航し、6月以降に結実するA. asterotrichaに対する採食および種子運搬行動を追跡観察によって明らかにする。また、P. deflexaに対しては1月から同様の調査を行う。この追跡観察手法は、チャイロキツネザルの採食戦略に関するデータも同時に得ることができる。共同研究機関であるアンタナナリヴ大学理学研究科動物学部門の教員と議論を重ねた結果、同大学の院生と共同で追跡観察を行うことによって、種子散布機能だけでなく採食戦略に関する研究も同時並行で行う計画を立てている。これにより従来の予定に比べてより多くの研究成果の拡充が見込まれる。
2.遺伝子データベースの更新:4haプロット内の実生DNA試料の採集は2015年度の雨季(11月~3月)に出現する当年実生においても継続して行う。これにより、2015年度の結実木を巡って遊動するチャイロキツネザルの種子散布パターンとその後に定着する実生の空間分布パターンの対応を直接検証すること可能となる。当年実生は各樹種とも毎年約200個体がコドラート内に出現する。GIS解析を活用して4ha内にランダムにコドラートを追加設置し、遺伝子流動の検出が十分に可能なサンプルサイズを確保する予定である。
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Research Products
(2 results)