2014 Fiscal Year Annual Research Report
波長5.75マイクロメートルのレーザーを用いた低侵襲な血管形成術の開発
Project/Area Number |
14J00720
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
橋村 圭亮 大阪大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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Keywords | 動脈硬化 / 血管形成術 / レーザー治療 / 低侵襲治療 / コレステロールエステル |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は波長5.75μmのレーザーを用いた低侵襲な血管形成術を実現させることである。コレステロールエステルのエステル結合に特有の吸収のある波長5.75μmを利用した低侵襲な血管形成術の形成に向けて,臨床を模擬した実験系の下で病変選択的な治療パラメーターを詳細に決定し,レーザー治療機器プロトタイプを開発する。平成26年度は正常血管に低侵襲な照射パラメーターの決定を目標としていた。 本研究では光源として波長5.7μm帯量子カスケードレーザー(QCL)を用いているが,これまでの実験ではQCLを用いた血管組織の切削において,切削痕周辺に広範な熱変性層がみられていた。これは血管組織の熱緩和時間よりもQCLのパルス間隔が短く,組織に対して擬似連続波として作用したためであり,照射方法を改善して熱影響を抑えることが課題となっていた。 平成26年度は,最初にQCLのパルス構造を制御するため,QCLのレーザー素子にパルス電流を送っているパルスドライバーの改造を行った。これにより,実質的に連続波として機能している個々のパルスを一つのまとまりとして一定間隔で照射すること(マクロパルス照射)が可能になり,サブミリ秒パルス低繰り返し化が実現した。 そこで,ウサギ動脈硬化病変に対して照射実験を行い,マクロパルス照射と従来の連続的なパルス照射を比較したところ,マクロパルス照射により周囲への熱影響を小さくかつ大きな切削を起こすことに成功した。また,マクロパルスのピークパワー密度が照射効果に影響することが示された。加えて正常血管と病変組織との反応選択性に変化があるかどうか検討したところ,マクロパルス照射においても切削差が確認された。以上より,波長5.7μm帯QCLを用いた安全なレーザー血管形成術の開発におけるマクロパルス照射の有用性が示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
波長5.75μmのレーザーを用いた低侵襲な血管形成術の実現に向けて,私は平成26年度中に正常血管に低侵襲に治療可能な照射条件を決定することを目標としていた。具体的には,1. 照射パラメーターの網羅的な変化に対する照射効果の比較,2. 飛散物の大きさの測定,3. 動脈硬化病変,及び正常血管組織の物理的特性から得た照射効果の理論的予測との比較,を行う予定であった。 一方で,現在有用性を検討している波長5.7μm帯量子カスケードレーザー(QCL)には,先行研究において正常血管と病変組織との間に切削差を出すことに成功したものの,切削痕の周辺に広範な熱変性層が生成するという優先すべき課題があった。これは,QCLのパルス構造に原因があり,正常血管に低侵襲な照射パラメーターを決定するためには,まずQCLのパルス構造を改良して周囲への熱影響を抑えた切削を達成する必要があった。 この課題の解決には光源の改良が必要であるため,当初の計画になかったが,QCLの試作機を供与頂いている浜松ホトニクス株式会社開発本部より,QCLのレーザー素子にパルス電流を送っているパルスドライバーを改良して頂くこととなった。これにより,新しいパルス構造と従来のパルス構造とを比較し,熱影響の改善の検討を行うことができるようになった。結果として,新しいパルス構造により,熱損傷幅を小さく,切削深さを大きくすることに成功した。また新しいパルス構造を利用することにより,従来の照射パラメーターに加えて適切に決定すべきパラメーターが増加した。このため,パルス構造を変えた照射実験を行った。 以上の理由で,平成26年度は当初予定していた1~3のうち,1. 照射パラメーターの網羅的な変化に対する照射効果の比較のみ行うこととなった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度は量子カスケードレーザー(QCL)のパルス構造の改良によりウサギ血管組織に対する熱影響を抑えた切削に成功したが,これにより適切な照射パラメーターの決定に検討すべき条件が増加した。したがって,平成27年度は引き続き,正常血管に低侵襲に治療可能な照射パラメーターの決定に向けて取り組んだのち,ファイバー導光下での照射効果の検討を行う。具体的には以下の3項目に取り組む。 1. 照射パラメーターの網羅的な変化に対する照射効果の比較(平成27年4~8月):波長5.7μm帯QCLのパルス幅,パルス繰返し周波数,平均パワー密度,照射時間を変化させながら,動脈硬化病変及び正常血管組織に対し照射実験を行い,照射結果より最も安全かつ効率的に動脈硬化病変のみを切削可能な照射パラメーターを決定する。 2. 飛散物の大きさの測定(平成27年9~12月):術後の塞栓症のリスクがないことを確かめるため,波長5.7μm帯QCL照射時に発生する飛散物を採取し,大きさを測定する。照射条件と飛散物の大きさとの関係を明らかにする。 3. ファイバー導光下での照射効果の検討(平成28年1~3月):ファイバー先端と病変部との接触の有無や,血管内を満たすもの(血液,生理食塩水等)を変化させる。照射後,組織学的評価を行い,適切な照射方法を決定する。 本研究の成果を第36回日本レーザー医学会総会(栃木),レーザー学会学術講演会第36回年次大会(愛知),Photonics West BiOS 2016(サンフランシスコ)などで発表する。
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Research Products
(6 results)