2014 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
14J00722
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
辻本 典顯 京都大学, 生態学研究センター, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | クローン植物 / ラメット生産様式の遺伝分散 / 優占ジェネット / 地下茎 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、クローン増殖によって個体を殖やすことができる植物(クローン植物)の集団を対象とする。クローン植物集団は多くのジェネット(一つの種子に由来するクローン株の集合)から形成されている。上記植物では、生活史形質の表現型における遺伝的変異の研究は限られている。特に本計画のような、「集団を優占するジェネットがもつ遺伝的性質は何か?」という疑問は、多くの植物生態学者が注目する課題である。本研究の大目的は、「ジェネットの適応度を推定し、クローン性の生態的、適応的意義を明らかにする」ことであり、採用期間中にはクローン増殖に注目する。 ジェネットはラメット(クローン株)生産により占有面積を拡大させる。拡大速度は、ラメット生産様式を介したラメットの動態によりジェネット間で異なる。これまでに、ラメット生産様式がジェネットの遺伝的性質と環境との交互作用により決まること、集団内でその様式に遺伝分散があることが報告されている。しかし、優占しているジェネットに、どのような遺伝的特徴があるのかについての知見がない。したがって本研究では、ラメット生産様式に遺伝的変異があるか、優占ジェネットが特徴的な生産様式を示すかを調べた。共通圃場実験により、クローン植物コンロンソウのジェネットのラメット生産様式を調べた結果、優占ジェネットAは集団の平均に比べて長い地下茎を、Bは短い地下茎を生産した。この結果は、採餌(光獲得など)戦略の違いとして解釈できる可能性がある。さらに、自然生育地では、ジェネットの違いに関わらず、優占区の中心に別ジェネットが分布する構造は見られなかった。この結果が、優占区の中心に別ジェネットのラメットが到達していないからか、ジェネット間競争で排除されたからか現時点で判断できていない。したがって次年度は、ジェネット境界部での分布構造を詳細に調査し、優占ジェネットの種内競争への強さを評価する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度には、クローン植物集団において現在優占しているジェネットに、ラメット生産の点で、どのような遺伝的特徴があるのを明らかにするための調査を行った。圃場および自然生育地において4,000株を対象に、クローン増殖の様式(ラメット生産様式)を評価した。その結果、実際に自然生育地で実現されているラメット生産様式およびラメットの空間分布と、ジェネット間の遺伝的違いを検出するために実施した共通圃場実験における、ラメット生産様式のデータが得られた。その結果、ラメット生産様式に遺伝的変異があること、優占ジェネットの中にも、地下茎長に変異があることが明らかになった。今後は、これらの優占ジェネットの形質に注目して研究を進める予定である。 また、以上の内容をまとめた投稿論文を準備中である。さらに、次年度に実施予定である①ラメット生産様式の違いにより、種内競争への強さが異なるか、②環境条件により、ラメットの生存率や生産様式がどの程度異なるのか、についての検証実験の準備が完了している。 以上の理由により、研究が計画通りに進行していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の大目的は「クローン植物においてジェネットの適応度を推定し、クローン性の生態的、適応的意義を明らかにする」ことである。ジェネットの適応度は種子繁殖とクローン成長の両方により決定されるが、それぞれの貢献をより正確に切り分けるために、まず採用期間中には、クローン成長によるラメット生産に注目して研究を進めていく予定である。具体的には、クローン成長によるラメット生産を通じて拡大する占有面積を、ジェネットの適応度の一成分と考え、どのような遺伝的特徴をもつジェネットが優占しているのかを明らかにするための調査を実施している。 当該年度には、ジェネット間の遺伝的違いを検出するための共通圃場実験において、ラメット生産様式を評価し、ラメット生産様式に遺伝的変異があること、優占ジェネットの中にも、地下茎長に変異があることが明らかになった。 まず、2012年から当該年度まで継続して行ってきた自然生育地におけるジェネット構造とラメット生産様式の調査、および上記の共通圃場実験の成果を、2本の国際誌に投稿する予定である。次年度には、昨年までの研究で明らかになった、ラメット生産様式の遺伝的な違いが、①種内競争の際に役立つのか、②どのような環境条件化で有利となるのかについて、自然生育地および共通圃場において検証する予定である。
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Research Products
(3 results)