2014 Fiscal Year Annual Research Report
発育環遮断による新規予防法開発を目指したトリパノソーマ細胞分化機構の解明
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14J01442
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Research Institution | Obihiro University of Agriculture and Veterinary Medicine |
Principal Investigator |
菅沼 啓輔 帯広畜産大学, 原虫病研究センター, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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Keywords | トリパノソーマ / 遺伝子発現調節 / RNA結合タンパク質 |
Outline of Annual Research Achievements |
家畜のトリパノソーマ症は、アフリカ大陸で最も経済被害の大きな原虫感染症である。しかしながらトリパノソーマ症に対する特効薬および予防ワクチンはない。トリパノソーマは哺乳類宿主およびベクター昆虫体内環境に適応するため、複数の発育ステージ特異的遺伝子群を発現する。これらの遺伝子群の発現時期・量はRNA結合タンパク質によって転写後段階で調節されている。しかし、これまでに発育ステージ変換に関わる網羅的なRNA結合タンパク質の知見はない。そこで、本研究では哺乳類感染型へ分化するために重要なEMFステージ特異的発現遺伝子の発現調節機構を解明することを目的とした。H26年度は、まず発育ステージ変換に伴う遺伝子群の発現動態解析を目的として、トリパノソーマの全発育ステージにおける遺伝子の網羅的・定量的な発現解析をRNA-seq.法により行い、全遺伝子のmRNA発現動態を取得し発育ステージ特異的もしくは特定の発育ステージでmRNA発現量が上昇する複数のRNA結合タンパク質の同定に成功した。さらにこれまで近縁種で発育ステージ変換に関連していると考えられるRNA結合タンパク質オルソログTcRBP6の発現動態を解析した結果、TcRBP6もEMFステージ特異的にタンパク質発現が上昇していたことから、EMFステージへの発育ステージ変換に関わる遺伝子群の制御を行うRNA結合タンパク質である可能性が示唆された。また、トリパノソーマ細胞数を迅速に高効率で評価するシステムを構築し、抗トリパノソーマ薬剤探索への応用が期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Trypanosoma congolenseの発育ステージ変換に伴う遺伝子群の発現動態解析を目的として、T. congolenseの全発育ステージ(血流型虫体、プロサイクリック型虫体、エピマスティゴート型虫体(EMF)および、メタサイクリック型虫体)における遺伝子の網羅的・定量的な発現解析をRNA-seq.法により行った。その結果、約10,000遺伝子の各発育ステージにおけるmRNA発現動態の情報を取得した。それら遺伝子のうち、RNA結合ドメインやジンクフィンガードメイン等RNA結合タンパク質と推測される約300遺伝子の発現動態を解析した結果、発育ステージ特異的もしくは特定の発育ステージでmRNA発現量が上昇する複数のRNA結合タンパク質の同定に成功した。以上より、特定の発育ステージで高発現する少数のRNA結合タンパク質群により、その他大多数のステージ特異的遺伝子の発現および発育ステージ変換が制御されている可能性が示唆された。さらに上記の結果をもとに、これまで近縁種で発育ステージ変換に関連していると考えられるRNA結合タンパク質オルソログTcRBP6の発現動態を解析した。その結果、RNA-seq.法と同様にEMFでmRNA発現量が上昇していることが明らかとなった。さらにTcRBP6はEMFで特異的に発現量が増大していることが明らかとなった。また間接蛍光抗体法でTcRBP6の細胞内での局在を解析した結果、EMFの細胞質に局在していることを明らかにし国際学会で報告した。このことからTcRBP6はEMFステージへの発育ステージ変換に関わる遺伝子群の制御を行うRNA結合タンパク質である可能性が示唆された。また、トリパノソーマ細胞数を迅速に評価するシステムとして生細胞由来のATPをルシフェラーゼの基質として反応させ発光強度の強弱で虫体数を比較する測定系を構築した。本測定を応用して、T. congolenseのハイスループット薬剤スクリーニングシステムを構築し、数種類の化合物の抗トリパノソーマ活性について報告した。
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Strategy for Future Research Activity |
H26年度はトランスクリプトーム解析をもとに、アフリカトリパノソーマ発育ステージ特異的に発現するRNA結合タンパク質群を見出し、TcRBP6の発現動態を解析した。H27年度は、H26年度に同定されたその他のRNA結合タンパク質群の発現動態の解析を、遺伝子組み換えタンパク質のクローニング、遺伝子組み換えタンパク質の発現・精製、ポリクローナル抗体の作製を行った後、ウエスタンブロット法、間接蛍光抗体法で進める。さらに、これらのRNA結合タンパク質が相互作用し発現が調節されると考えられるmRNAを、mRNA-RNA結合タンパク法共免疫沈降法(iCLIP法)で精製したのち、シーケンス解析を行うことで明らかにする予定である。また、解析したRNA結合タンパク質の発現レベルの変化が、T. congolenseの発育ステージ変換に及ぼす影響を解析するために、外来遺伝子強制発現原虫およびRNA干渉法による遺伝子ノックダウン原虫(RNAi原虫)の作製を試みる。以上の研究でmRNA-RNA結合タンパク質の相互作用およびRNA結合タンパク質の機能が明らかとなり、ステージ特異的遺伝子群の発現調節機構さらに発育ステージ変換機構を明らかになることが期待される
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Research Products
(5 results)