2014 Fiscal Year Annual Research Report
うつ発症機序の解明を目指したマウス前頭前野の長期in vivo2光子イメージング
Project/Area Number |
14J01625
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
澤田 和明 北海道大学, 情報科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | うつ病 / 大脳皮質前頭前野 / in vivo 2光子顕微鏡法 |
Outline of Annual Research Achievements |
うつ病は発症機序が完全に解明されていない精神疾患の一つである。発症原因にはモノアミン仮説等の様々な原因が提唱されているが、精神的なストレスが重要な因子の一つであるという仮説が有力なものの一つである。マウスの実験では過剰なストレスにより大脳皮質前頭前野領域の樹状突起の長さやスパインの数に異常が起こることが報告されており、ストレスが脳のある特定の神経回路や神経細胞に変化を引き起こすと推測されている。また、うつ病は再発が多いため、神経回路レベルでの異常が残留する可能性も指摘された。本研究では、ストレスによって正常なマウスがうつ様の症状を発症する過程において、in vivo2光子顕微鏡法を用いて、前頭前野におけるスパインの形態変化を捉えることで、発症・回復機序に関する知見を得ることを目指した。具体的にはまず、一般的に生体脳の長期観察は難しいとされているため、顕微鏡法の改良を実施した。次に、この顕微鏡法を用いた前頭前野神経回路やシナプスの高精細イメージングにより、うつ病の責任回路を同定することを目標とした。今までの2光子顕微鏡では皮質表層から約0.8mmまでしか観察できず、皮質深部に位置する前頭前野を対象にできなかった。そこで、今年度は、in vivo2光子顕微鏡法へ新規励起レーザーを導入することで、1.5mmの深さまで観察することに成功した。一方、うつ病のモデルマウスを薬剤誘導によって作成しその評価法を確立した。次に、モデルマウスで生じる変化について固定脳を用いて検証した。まず、モデルマウス作成のためにストレスによって産生される副腎皮質ホルモンの長期間投与を行った。次に、うつ症状の一つである無快楽症をスクロース試験によって評価した結果、一部においてスクロース水の飲水割合が低いマウスが現れた。また、それらの固定脳においてスパイン形態の分布を解析した結果、その分布に変化が観察された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、in vivo 2光子顕微鏡法を用いてうつ病モデルマウスの前頭前野に生じる変化を捉えるための技術開発を行うことが目的であった。そのため、本年度は、脳深部に位置する前頭前野の生体イメージングを実施可能とするために2光子顕微鏡の改良を行った。加えて、長期生体脳深部観察のための技術開発を行い、新規レーザー導入用光路の設計・構築により、生体脳における世界最深部(1.5mm)の蛍光観察を達成した。これは、前頭前野と同等の深さに位置する神経細胞を観察できたことを意味する。 また、本年度は、うつ病モデルマウスとして、副腎皮質ホルモンの長期投与によるうつ様症状誘導を試みた。うつ様症状の評価としてスクロース試験を行った結果、スクロース水の飲水割合が低いマウスが現れた。結果には個体差があり再現性を今後、確認する必要はあるものの、薬剤投与によって無快楽症を引き起こした可能性が示唆された。次に、これらの固定脳において高解像度顕微鏡法を用いて前頭前野第Ⅴ層錐体細胞を観察した結果、その頂上樹状突起においてスパインの形態の分布様式に違いがあることを見出した。 これらの成果から、今年度の目標であったうつ病モデルマウスの作成を達成すると共に、その固定脳において神経細胞の形態的な変化の観察を実施した。これらはマウス生体脳における慢性ストレス下神経回路の機能形態的な変化を追うための技術的な基盤であり、本研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度では、固定脳において得られた前頭前野第Ⅴ層神経細胞のスパインの形態変化を基礎として、個々の神経細胞の部位や場所に依存したスパインの形態変化をさらに明らかにする。また、逆行性トレーサーを用いて扁桃体へ投射している前頭前野の神経細胞の標識法を確立中であるため、確立後には神経回路に依存した神経細胞の形態変化についても明らかにする。次に、生体適合性素材を用いて手術法の改良を行い、3週間にわたる長期間の2光子イメージングを目指す。固定脳における研究と並行してこれらの知見や技術を生体観察へ応用し、改良した2光子顕微鏡を用いて慢性ストレス下における生体脳での神経回路依存的な器質変化を観察する。
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Research Products
(5 results)