2015 Fiscal Year Annual Research Report
統合型解析顕微鏡を用いた線虫C.elegansの感覚応答行動制御メカニズムの解明
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14J01861
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
谷本 悠生 大阪大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | C. elegans / カルシウムイメージング / 嗅覚 / ナビゲーション |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、「感覚入力に基づいて運動出力を制御する神経回路活動を、細胞レベルで理解すること」を目的とし、極めてシンプルな神経系を持つ線虫C. elegansをモデルとして、匂い物質ノナノンに対する濃度勾配に沿った効率的な忌避行動を可能にする神経メカニズムを明らかにする。これまでに我々は、独自に開発した統合型顕微鏡システムを用いて、ノナノンの増加と減少に反応する異なる二種類の感覚神経細胞を同定した。一種類の感覚細胞は濃度増加に微分的に反応し、すばやく方向転換を引き起こす一方、もう一種類の感覚細胞は濃度減少に対して積分的に活動し、感覚情報をしばらく蓄積することで、慎重に正しい方向への直進を引き起こしていた。今年度は、変異体を用いた解析により、感覚情報を蓄積する積分的活動が生じるメカニズムを解明した。まず神経伝達がほとんど生じなくなっている変異体でも積分的活動は通常通り見られたことから、この積分的活動は神経回路ではなく1細胞により引き起こされていることが明らかになった。さらに、種々のカルシウムチャネルの変異体を用いた解析により、積分的活動はたった一種類の電位依存性カルシウムチャネルからのカルシウム流入によって引き起こされることが明らかになった。また、複数の神経細胞を同時にイメージングする際に得られる蛍光画像を効率よく解析するために、東北大学システム情報科学専攻 橋本浩一教授との共同研究として、複数の神経細胞の自動追跡するソフトウェアの開発を行った。さらに、このソフトウェアの性能評価をドーパミン作動性細胞を用いて行ったところ、C. elegansのドーパミン細胞の機能的非対称性を見出し、その成果を国際学術誌に投稿した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成26年度には、忌避匂いを感知する2種類の感覚神経細胞に関して、それぞれの神経細胞のカルシウム濃度は、匂い濃度の時間微分およびその時間積分を極めて正確に反映している事などを明らかにした。平成27年度は、変異体を用いた解析により、この時間積分的なカルシウム濃度上昇は、1細胞内において特定の電位依存性カルシウムチャネルが引き起こしていることを明らかにした。高等動物において、意思決定に関与する神経細胞の時間積分的な活動は、理論的研究から再帰的神経回路によって引き起こされていると考えられているが、1細胞による積分の可能性も示唆されていた。本研究成果は、動物の行動選択に関わる積分的神経活動が1細胞によって引き起こされていることを示した初めての例であり、さらにその分子的実体まで明らかになった。さらに、複数の神経細胞の神経活動を同時解析するための実験系の構築し、これまで知られていなかったC. elegansのドーパミン細胞の機能的非対称性を明らかにするとともに、ノナノン刺激に対して明確な応答を示す介在神経細胞の同定にも成功した。
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Strategy for Future Research Activity |
今回明らかになった、同じ程度の匂い濃度変化において、濃度上昇に応答する細胞が微分的、濃度減少に応答する細胞が積分的に応答する現象は極めて興味深い。一般的にも、神経細胞の応答性の速さが細胞ごとに異なることは知られているが、その分子的なメカニズムは必ずしも明らかになっていない。そこで今後は、濃度減少に応答する細胞が積分的応答を示すメカニズムに加えて、濃度上昇に応答する細胞が微分的応答を示す分子メカニズムについても解析し、どのような分子的・細胞的な機構の違いが細胞応答の特性を決めているのかを明らかにする。また、それまでに得られた研究成果を、論文として海外一流雑誌に投稿する。
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[Presentation] Neuronal mechanisms for C. elegans olfactory navigation revealed by a highly integrated microscope system.2015
Author(s)
Tanimoto Y, Yamazoe A, Fujita K, Kawazoe Y, Miyanishi Y, Yamazaki S, Gengyo-Ando K, Nakai J, Fei X, Iwasaki Y, Hashimoto K, Kimura K.
Organizer
20th International C. elegans Meeting.
Place of Presentation
Los Angeles, CA
Year and Date
2015-06-27
Int'l Joint Research
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