2014 Fiscal Year Annual Research Report
人間-環境系のデザインにおける創発的プロセスに関する研究
Project/Area Number |
14J01954
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
酒谷 粋将 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
|
Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
|
Keywords | 人間-環境系のデザイン / 設計プロセス / 設計方法 / メタファー / 創造性 / デザイン思考 / 発散・収束プロセス / フレーム |
Outline of Annual Research Achievements |
人間-環境系のデザインにおける創発的プロセスのメカニズムを解明すべく、本年度はこれまでにも扱ってきたメタファーの概念を中心にその研究とそこで得た知見をもとにした実践的活動を展開してきた。以下にその具体的な内容を示す。 (1) 創発的思考プロセスの解読 創発的思考法としての「デザイン思考」の概念に着目し、その思考プロセスとメタファーの概念との関わりについて解読した。その中でも特に、これまでのデザイン方法やデザインプロセスの研究の中でも議論にあがることの多かった「発散的思考・収束的思考」と、設計における状況との対話の重要性を主張するデザイン思考の中で重視される、対象とする問題に与える枠組みとしての「フレーム」の概念を取り上げ、それぞれのプロセス、概念とメタファーの関係の解読を行った。その結果、メタファーがそれらふたつの思考形態の認知的基盤になりうることを示すことができた。 (2) 実践的活動への応用 所属研究室で93名の子どもたちを含む多くの人々と共に小学校の図書スペースをリデザインする京都市洛央小学校ブックワールドプロジェクトを展開してきた。そこでメタファーを使った設計手法の可能性を探るべくこのプロジェクトの事例を取り上げ、メタファーがいかに設計主体の思考の広がりと協働における主体性形成に影響を与えるのかについて考察した。その結果、設計対象の属性や機能などを見つけ出す「発見」や、新たなアイデアを紡ぎだす「創造」の局面において、児童らの発想が設定した世界を起点として広がり、それが多様な解釈が可能なメタファーによる世界であることによって、児童らが自発的に世界を拡張することになり、結果として主体的な参加が行われるプロセスを確認できた。このようにしてユーザーを主体とした協働の設計プロセスに向けたメタファーの可能性を示すことができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究計画ではこれまで扱ってきたデザインの創発的プロセスにおけるメタファーの研究を拡張し、より大きな枠組で人間-環境系のデザインを捉えようとしていたが、現時点ではメタファーの概念を通したデザインプロセスの分析に留まっている。しかしその研究の中でメタファーに限らないより一般的な設計プロセスを分析する手法の開発や、分析の対象となる事例の収集が飛躍的に進んだ。具体的には(1)デザイナーの思考のプロセスから発散的思考や収束的思考の局面を取り出す手法、(2)デザイナーの発話を語のネットワークとしてコンピューター上に実装することでグラフ理論をはじめとした数理的分析を設計プロセスに適用することを可能にし、これまで定性的な分析が中心であった「フレーム」の概念を定量的に扱う手法、等を開発した。更には所属研究室において(3)子どもたちを中心とした多くの人々との協働による小学校の図書スペースのデザインプロジェクトを中心とした実践的な活動も展開してそのプロセスの分析も進めており、メタファーの概念からより広い領域の創発的プロセスを扱うことが次年度には十分に可能になると予想される。以上のことを総合的に考えると、今年度の研究は当初の計画以上に進展していると言える。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度に構築した分析の手法や、一連の実践的活動の記録をもとにして、これまでのメタファーを中心に据えた考察の観点を拡張し、人間-環境系のデザインにおける創発的プロセスのメカニズムを明らかにすることを目指す。特に人間-環境系のデザインを目指す上では、デザイナーを取り巻く状況との対話によるデザインが重要になる。ここでいう状況とはデザイナーの周辺にある物的環境だけでなく、デザインを共にするコラボレーターやデザインの成果物に触れるユーザー等の主体も含まれるのである。本年度は専門家としてのデザイナーの創造性のメカニズムの解明と、ユーザーを含む多くの主体との協働のプロセスの解読を行ったが、「対話によるデザイン」の概念は上記のようなこれまでは区別して扱われる傾向の強かったデザインを包括的に捉えるための枠組みとなる概念である。今後は本年度の研究成果を更に発展させ、この新しいデザイン概念の体系化を図る。
|
Research Products
(12 results)