2015 Fiscal Year Annual Research Report
環境周期変動に対する転写・翻訳応答機構の実験進化による創出
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14J02139
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
高野 壮太朗 大阪大学, 情報科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 飢餓 / 個体間相互作用 / 微生物集団 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、貧栄養・富栄養が変動する環境下で生物の生存・繁殖に有利に働く戦略の解明を目指している。富栄養環境下(増殖に必要な栄養が十分にある環境)での細胞内活動の解析は数多く行われているものの、貧栄養環境下(完全に利用可能な栄養が欠乏した条件)でどのような戦略が有利に働くかについては、未だ詳細な知見は得られていない。そのため、採用第二年度目においても、生物が貧栄養環境(炭素源やATP供給源となるグルコース欠乏条件下)にどのように適応するかについて、祖先型よりも長期間生存可能なバクテリア(大腸菌)の取得、それらの細胞が行っている細胞内活動の解明を行い、理解することを目指してきた。 採用第一年度目では、大腸菌細胞集団の貧栄養環境での生存率は、初期細胞濃度に大きく依存することが明らかになっていたが、第二年度目に行った。実験、数値シミュレーションの結果から、貧栄養環境での細胞生存が初期細胞濃度に依存する理由は、細胞の生存に死細胞由来の栄養濃度が大きく影響するためであることが明らかになった。そのため、リサイクル活動に頼らずに生存する進化株の取得には、死細胞由来の栄養源の混入が小さくなる、初期細胞濃度が低い条件での選択実験の必要性が示唆された。 一方で、死細胞由来の栄養のある環境下では、細胞は他の栄養源(例えばグルコース)の存在下とは異なる、増殖・死滅制御を行い、安定して長期間生存可能であることも明らかになった。貧栄養環境中で死細胞由来の物質を含む培養液中では、細胞は自身の濃度に応じて増殖・死滅速度を制御し、環境中の栄養分を全て使い果たすことなく安定して一定の生細胞数を維持可能であることが明らかになった。従来は、細胞の増殖速度は、基質濃度に大きく異存することが知られていたが、貧栄養環境中では、栄養源がある場合でも、それとは異なる形で細胞活動を制御している可能性があることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
富栄養・貧栄養環境が変動する条件下で、生物の生存・増殖に適した戦略の理解に向けて、これまで比較的有用な知見に乏しかった、貧栄養条件下で生存能力を高めるための細胞内活動(転写・翻訳制御)の理解を目指してきた。具体的には、祖先株よりも高い生存能力を持つ大腸菌進化株の実験進化による取得と、飢餓環境下で長期生存を行っている細胞の転写プロファイルの解析に適した、培養環境、実験デザインの検討を行ってきた。 採用第一年度、第二年度の成果から貧栄養環境での細胞の生存には、死細胞由来の栄養濃度が大きく影響することと、死細胞由来の栄養が含まれる飢餓環境中での細胞挙動が生存細胞の濃度に大きく依存することの二つが明らかになった。得られた知見は、飢餓時の細胞の生存戦略を考える上で重要であると考えられ、また、貧栄養環境下での生存能力を高めた細胞の取得や、貧栄養環境で生存を続ける細胞の転写プロファイル解析を行う上でも、非常に有用な知見であると考えられる。これまで得られた知見を基に実験デザインを組み立てることで、貧栄養環境下で生存・増殖能力を高めることに寄与する細胞内活動の理解は十分可能であり、本研究の目標達成に着実に近付いている。 以上のことから、現在の研究進捗は、おおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
採用第一年度、第二年度目から得られた結果から、死細胞を含めたあらゆる外部環境由来の栄養に頼らずに生存を続ける細胞を取得するには、死細胞由来の必須栄養源の混入が小さくなるような、初期細胞濃度が低い条件で、必須栄養源を欠乏させた環境での選択実験が必要であることが明らかになった。今後も引き続き、低細胞濃度で細胞を飢餓に曝し、生存能力を高めた株の選択実験を行う。 一方で、死細胞由来の栄養が存在する環境は、通常の栄養源(例えば、グルコース)が存在する環境とは異なる挙動を行うことで、長期間生存可能であることが示唆されたため、死細胞由来の栄養を含む飢餓培養液の上澄み中での細胞内活動(種々の生命維持活動に必須なmRNAを産生する転写プロセス)をDNAマイクロアレイを用いたトランスクリプトーム解析によって調べる。この実験結果を、他の条件(例えば、グルコース欠乏環境やグルコースありの富栄養環境)での転写プロファイルと比較することで、飢餓環境を生き抜く上で必要となる、遺伝子発現や細胞内活動について有用な知見が得られることが期待できる。
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Research Products
(3 results)