2015 Fiscal Year Annual Research Report
高感度な欠陥可視化を目指した多重モードラム波時間反転法の確立
Project/Area Number |
14J02190
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
森 直樹 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | ラム波 / ガイド波 / 超音波 / 不完全接合部 / 閉口き裂 / 薄肉構造 / 非破壊評価 / 機械材料・材料力学 |
Outline of Annual Research Achievements |
ラム波による閉口欠陥の評価の実現に向けて,ラム波と閉口欠陥との相互作用を正確に理解することが必要不可欠である.閉口き裂を有するアルミニウム合金平板に引張荷重を加えると,き裂の開口によってラム波の透過率が減少するという結果を昨年度の予備検討で得ていたものの,測定で得られたラム波信号の解釈は容易でないことが判明していた.これを受けて,[1]接触面の圧力,および[2]き裂の寸法がラム波の挙動に及ぼす影響をそれぞれ検討した. [1]を明らかにするため,平板中の閉口き裂を模擬したアルミニウム合金平板の突合せ接触部におけるラム波の透過特性を測定した.特に,低周波数のラム波0次対称(S0)モードおよび0次反対称(A0)モードを入射した場合について,ラム波透過率と接触圧力の関係を明らかにした.測定結果を基に突合せ接触部のモデル化を行った結果,得られた理論解析結果は,実験結果を良好に再現した. [2]の検討では,有限要素法などの従来法に比べ計算効率の高い手法として注目されるスペクトル要素法を用いて、三次元波動伝搬シミュレータを新たに構築した.2種類の入射周波数について,板厚方向に貫通した平板中のき裂でのラム波散乱挙動を解析した.その結果,開口き裂でのラム波透過率は入射モードと周波数にほとんど依存せず,き裂長さの増加とともに減少した.さらに,き裂面の接触を考慮した結果,き裂長さとき裂面の密着状態によって、ラム波の透過率が複雑に変化することも判明している. さらに,多重モードラム波時間反転法の確立に向けた予備検討として,多重モード性を有するラム波に対して時間反転法を適用する際の問題点について考察した.その結果,単一のラム波モードを送受信することが困難な場合,ラム波の伝搬挙動を完全には時間反転することができないことがわかった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ラム波を用いた閉口欠陥の評価を実現する上で,平板中の疲労き裂におけるラム波散乱挙動を正確に理解することが困難な課題でした.その原因として,(1)き裂の閉口(き裂面の接触),(2)き裂の寸法,がラム波の挙動に与える影響が明らかでなかった点が挙げられます.本年度の研究では,閉口き裂面を模擬した平板接触部でのラム波透過特性の測定と,開口き裂を有する平板中を伝わるラム波の三次元波動伝搬シミュレーションにより,上記2点の解決に向けて有用な知見を得ることができました.加えて,閉口き裂におけるラム波散乱挙動を三次元解析することにも成功しています.これらの研究結果に基づき,疲労き裂とラム波との複雑な相互作用の解明が今後期待されます. さらに,本年度はじめに目標の1つとしていた,ラム波に時間反転法を適用する際の問題点を,二次元ラム波伝搬解析により明らかにしました.これにより,多重モードラム波時間反転法を確立する上で必要となるプロセスがより明確になったと考えられます.以上の理由から,ラム波による欠陥の高感度な可視化の実現に向けて,本研究はおおむね順調に進展していると評価します.
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Strategy for Future Research Activity |
閉口き裂を模擬した平板接触部でのラム波透過特性を実験的に明らかにした.しかしながら,初年度に著者らが理論解析で見出した,特定のラム波モード入射時に発生する接触部の共振に関しては未検討である.ラム波透過率の測定と同じく,接触部の共振特性は,閉口き裂を評価する際の有効な指標になると期待される.さらに,初年度に構築した測定系を用いて,アルミニウム合金平板中の疲労き裂でのラム波散乱波の測定を行う.平板に働く引張荷重が散乱波に与える影響を明らかにし,これまでの実験的検討や三次元波動伝搬シミュレーションで得られた基礎的な知見に基づいて,実験結果の正確な解釈を目指す.また,多重モードラム波時間反転法の確立に向けては,ラム波対称モードと反対称モードの変位分布に着目した送受信方法を検討することで,今年度の予備検討で明らかとなった問題点の解決を図る.時間反転波の集束結果に対して,用いたラム波モードや周波数域が与える影響を検討する.
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