2014 Fiscal Year Annual Research Report
瀬戸内海における窒素固定ラン藻の生態学的役割と窒素動態への寄与の解明
Project/Area Number |
14J02468
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
橋本 怜弥 京都大学, 農学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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Keywords | 窒素固定ラン藻 / 瀬戸内海 / UCYN-A / UCYN-C |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、瀬戸内海における窒素固定ラン藻の役割の解明を目指し、①分子生物学的手法を用いた窒素固定ラン藻の分布・多様性の解明という生態学的アプローチと、②瀬戸内海から新たに獲得した窒素固定ラン藻分離株の全ゲノム解読による代謝系の特徴づけという生理学的アプローチから研究を遂行している。
①分子生物学的手法を用いた窒素固定ラン藻の分布・多様性の解明 単細胞性窒素固定ラン藻の16S rRNA遺伝子を対象としたクローン解析の結果、UCYN-AとUCYN-Cに属する配列が得られた。特にUCYN-Cは、16S rRNA遺伝子に基づいて複数のクレード(Ribotype-1, 2, 3, 以下それぞれR1, R2, R3)に分かれることを本研究から発見した。また、リアルタイムPCRの結果、UCYN-Aは低無機態窒素濃度時に検出されたが、一方でUCYN-Cは低水温・高無機態窒素濃度時でも高濃度に検出された。これらの結果から、瀬戸内海においてUCYN-AおよびUCYN-Cに属する単細胞性窒素固定ラン藻が分布しており、系統ごとに異なった分布をすることが明らかとなった。 ②瀬戸内海から獲得した新規単細胞性窒素固定ラン藻YR-1株のゲノム解読 次世代シーケンサーMiSeqを用いてUCYN-Cに属するYR-1株のゲノム解読を行った。系統解析の結果、YR-1株はR1クレードと異なる枝に位置してR2クレードに属しており、YR-1株はR1クレードと系統的に異なる新規UCYN-C系統群であることが示された。また代謝系を推定した結果、R1クレードと比較してYR-1株のみが有する代謝系として、複数のトレハロース・スクロース生合成経路やTCA回路において酸化ストレス耐性を持つacnAを有していた。この結果から、YR-1株は、強光や塩濃度変化など多様なストレスに適応したゲノムを有していると推測された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、①分子生物学的手法を用いた窒素固定ラン藻の分布・多様性の解明という生態学的アプローチと、②瀬戸内海から新たに獲得した窒素固定ラン藻分離株の全ゲノム解読による代謝系の特徴づけという生理学的アプローチという2つの研究の達成を目指している。
①について、瀬戸内海由来の海水試料から単細胞性窒素固定ラン藻UCYN-AおよびUCYN-Cを多量に検出したという結果を得た。また、16S rRNA遺伝子に基づき、UCYN-Cは大きく3つのグループに分かれることを新たに発見した。これらの結果は瀬戸内海においてどのような窒素固定ラン藻が、どれぐらい分布しているかを示しており、分子生物学的手法を用いた窒素固定ラン藻の分布・多様性の解明という研究目的を順調に達成できていると考えられる。
②について、瀬戸内海の単細胞性窒素固定ラン藻の中でもUCYN-Cに属するR2クレードが優占していたという結果を受け、R2クレードがどのような特徴を有しているかを明らかにするため分離株のゲノム解読を行った。その結果、R2クレードに属するYR-1株はR1クレードに比べ、強光や塩濃度変化など多様なストレスに適応したゲノムを有していると推測された。R2クレードに属する分離株のゲノム解読を行い、その特徴を明らかにしているため、瀬戸内海から得られた窒素固定ラン藻分離株の全ゲノム解読による代謝系の特徴づけという目標を順調に達成できていると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の研究目標は、①分子生物学的手法を用いた窒素固定ラン藻の分布・多様性の解明という生態学的アプローチと、②瀬戸内海から新たに獲得した窒素固定ラン藻分離株の全ゲノム解読による代謝系の特徴づけという生理学的アプローチという2つがある。
このうち、①の「分子生物学的手法を用いた窒素固定ラン藻の分布・多様性の解明」という目標に関しては概ね達成できている。
一方で、②の「瀬戸内海から新たに獲得した窒素固定ラン藻分離株の全ゲノム解読による代謝系の特徴づけ」という目標について、現時点でゲノム解読による代謝の特徴づけが可能な株はYR-1株のみであり、一株のみで今回発見されたR2クレードの特徴を明らかにすることは難しい。現在得られているR2クレードに属する分離株として、兵庫県洲本市五色浜から得られたGS-1株が得られている。今後、本株の無菌化を試み、そのゲノム解読を行って代謝系の特徴づけを行うことで、R2クレードがどういう特徴を有しているかについてより多くの情報が得られると考えられる。さらに、瀬戸内海由来海水試料からさらに単細胞性窒素固定ラン藻の分離を試み、解析に供する株数を増やすことで、UCYN-Cがどういうグループを有し、それぞれがどのような特徴を有しているかを明らかにする。
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Research Products
(2 results)