2014 Fiscal Year Annual Research Report
バクテリア界における新たな高次分類群を代表する細菌の機能解析
Project/Area Number |
14J02782
|
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
渡邊 美穂 北海道大学, 環境科学院, 特別研究員(DC2)
|
Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
|
Keywords | 新綱 / 純粋分離 / ゲノム解析 / 系統分類 / 硫酸還元細菌 |
Outline of Annual Research Achievements |
炭素・硫黄・窒素の環境中での動態は、地球温暖化・環境汚染防止の観点から重要視されている。これらの元素循環において、細菌の活動は非常に重要である。環境中には、莫大な数の未知の細菌種が存在していることが環境から抽出したDNAの多様性解析により示されている。しかし今日までに、人類が純粋分離株にして利用できる形にした細菌種は、地球上の細菌すべてのうちわずか1%以下に過ぎないことが示されている。さらに、細菌はきわめて高い系統的多様性を有することが現在明らかにされつつある。細菌界における最高次分類階位である「門」の数は現在約30であるが、環境中の細菌DNAの解析は100以上の未知の門の存在を示唆している。未培養細菌の多くは、既存の分類群に収めることの出来ない系統的位置にあると考えられる。そのような未知系統の細菌が自然環境中で何を行っているか、どのような役割を果たしているのかについて知ることは非常に困難である。そのため培養に依らないアプローチによる試みが多くなされているが、それらによって知ることの出来る細菌の機能や性質は予測の域を出ないという問題がある。細菌を純粋分離株として得られれば、その細菌が実際に有する生理学的性質や生化学的特性について詳細に調べることができる。系統的・機能的に新規な細菌を培養株として得て、ゲノム配列を用いた機能予測や詳細な系統解析を行うことにより、細菌の系統進化、そしてまったく新しい生物化学的プロセスの存在をも明らかにできる可能性がある。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
新規細菌HC45の純粋分離株を培養系より得ることに成功した。HC45株は系統的に独立しており、Firmicutes門における既存の系統群に分類できないことが示された。さまざまな生理生化学的特徴を検討し、形態観察等を仔細に行った結果に基づき、HC45株をFirmicutes門における新「綱」を代表する新規細菌として記載した。またHC45株のゲノムDNAの抽出を行い塩基配列の解読を行った。その結果、HC45株の全ゲノム配列を決定することに成功した。 新規の細菌skLN1株を純粋分離株として得た。系統学的解析の結果よりskLN1株を新属新種細菌Effusibacillus lacusとして記載すると共に、系統樹上で主だったAlicyclobacillus属のメンバーから孤立していたA. pohliaeとA. consociatusの2種をE. pohliae、E. consociatusとして再分類した。 新規硫酸還元細菌Pf12B株を得た。この株は、系統的にはDeltaproteobacteria綱Desulfomicrobium属細菌に類縁する硫酸還元細菌である。Desulfomicrobium属細菌は共通して桿状の細胞形態を有し、一部の硫酸還元細菌が特異的に保有するデサルフォビリジンという酵素を持たないことが知られている。しかし形態観察と生化学的解析の結果、Pf12B株はらせん型の細胞形態およびデサルフォビリジンを保有していることが示唆された。その他生理学的にも近縁種とは異なる点が多いため、Pf12B株を新属新種細菌として記載した。
|
Strategy for Future Research Activity |
現在HC45株のゲノム配列の情報解析を行っている。HC45株が属するFirmicutes門は分類学的に混迷を極めており、系統的帰属が明らかになっていない種も非常に多く含まれている。今後はHC45株のゲノム配列から得られた情報をもとに、Firmictes門の他系統について比較解析を行い、この系統の体系的な整理を行う。 新規に分離した硫酸還元細菌Pf12B株のゲノム解析も今後行う。 また、南極海洋堆積物より、綱レベルで系統学的位置が不確定な細菌を得ているので今後この細菌の特徴づけも進めていく。
|
Remarks |
北海道大学低温科学研究所 微生物生態学分野ホームページ(http://www.lowtem.hokudai.ac.jp/micro-ecol/index.html)
|