2014 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
14J02906
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
佐野 友彦 京都大学, 基礎物理学研究所, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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Keywords | 非平衡統計力学 / 非熱的揺らぎ / 揺らぐ境界 / 固体摩擦 |
Outline of Annual Research Achievements |
採用1年目の計画にあった(i)温度差のある気体で挟まれた可動壁の確率過程によるモデル化(ii)摩擦存在下の可動壁のモデル化(iii)温度差と摩擦の両者が存在する熱機関のモデル化の3点は予定通り完了した。以下にその具体的な実施状況を述べる。 [計画(i)(ii)] Liebがボルツマンメダル受賞記念講演で指摘した、圧力は等しいが温度の異なる気体で断熱可動壁を挟んだとき、可動壁の静止位置は平衡熱力学で予言できない、という断熱ピストン問題がある。線形化ボルツマン方程式と等価なポアソンノイズに駆動される確率微分方程式を提案し固体摩擦下の断熱ピストン問題を解決した。摩擦の無いときピストンは高温側に向かって動く事が知られるが、摩擦の大きさを大きくするとピストンの運動の方向は逆転し低温側に向かって動く事がわかった。 [計画(iii)] 生体内の細胞の境界に相当する細胞膜等は揺らぐ為決定論的には制御できず確率的に揺らぎ、当然その制御は有限の速さで行われる。こういった「境界の揺らぎ」を理想化したものとして、理想気体を熱浴で温度制御された容器に封入し揺らぐピストンで蓋をした系を考える。ピストン外側の理想気体と封入気体が力学平衡であれば、ピストンの速度揺らぎは素朴には熱浴の温度で決まるランジュバン方程式で記述できると期待できるが、ピストンの速度相関関数は粒子数が大きくないときランジュバン方程式では再現できない事が知られており、従来の温度一定のランジュバン方程式を越えた定式化が必要であった。そこで断熱ピストン問題で用いた確率微分方程式を拡張した確率平均場模型を提案し、有用性を分子動力学計算で確かめ、熱機関の効率を調べた。封入気体に対して高温と低温の熱浴を切り替える事を繰り返すエンジンを考えた。このエンジンに対し、有限時間熱力学として知られる、単位時間当りの仕事を最大化したときの効率(最大パワー出力 時の効率)を論じる枠組の有用性を論じた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
次年度の計画に含まれる(iv)非熱的マシンの構築を念頭に置いた非熱的揺らぎの基礎理論も行った為計画以上に研究は進展した。以下にその具体的な実施状況を述べる。
[計画(iv)]を念頭において非熱的揺らぎの基礎理論の研究を行った。粉体気体中に粉体粒子より質量が充分大きな軸周りの摩擦が無い回転子を入れて運動を観 察する。この運動は粉体ブラウン運動と呼ばれるが、回転子の角速度分布はガウス分布となる為、粉体気体の非平衡性 が顕著に現れない。つまり回転子の揺らぎを詳細に測定しても系の非平衡性は特徴づける事ができない。回転子の速度分布はガウス分布となる事は粉体気体が非平衡であれ、回転子が緩和中に十分な回 数衝突する事で中心極限定理により平衡化して回転子と粉体気体の“温度(分散)”が等しくなってしまう事 が原因である。従って回転子が軸と強く摩擦すれば、回転子の緩和時間が非常に短く粉体気体は中心極 限定理が成り立つ程多数回衝突する事はできない為、平衡化を回避できる事が期待できる。以上を確率過程の言葉で一般化した。具体的には平衡化の数学的表現であり、単一の熱浴に接し た粒子に対するマスター方程式の縮約理論として知られるシステムサイズ展開法を複数の“熱浴”に接する場合に拡張した。以上の結果は1編学術誌で出版,1編投稿中である。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度に行う予定であった[(iv)非熱的マシンの構築]を念頭に置いた非熱的揺らぎの基礎理論を発展させ、非熱的マシンの構築を行う。具体的には、可動壁が重力方向に動くとし、粉体系を重力に垂直な面上で水平加振させて非平衡定常状態にし、非平衡非熱的系の駆動されたマシンを構築する。続いて(v)揺らぐマクロな熱機関を提案を行う。計画(iii)で行った論文に対してレフェリーから高密度領域での補正を如何にすべきかというコメントをもらった。現状提案している確率平均場模型では高密度の分子動力学の結果と有意にずれている事がわかっている。この原因は粒子の拡散の効果を取り入れていないことに起因していると考えている為、確率平均場模型で導入したエネルギー保存の方程式において「白色のポアソンノイズ」を「拡散の時間だけ相関をもつ有色のポアソンノイズ」に拡張すればよいのではないかと考えている。さらにマクロな熱機関を念頭に置いた化学反応下のエンジンの研究も始める。
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Research Products
(8 results)