2015 Fiscal Year Annual Research Report
低炭素マルテンサイト鋼の水素脆性におよぼすひずみ速度と変形温度の影響
Project/Area Number |
14J02927
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
桃谷 裕二 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 水素脆性 / ラスマルテンサイト組織 / ひずみ速度 / 変形温度 / 変形条件 / 水素マイクロプリント法 / 亜鉛電気めっき |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は低炭素マルテンサイト鋼においてひずみ速度と変形温度が水素脆性破壊に与える影響について調べることを目的にし, 本年度は主に, 単軸引張試験の変形温度(-100°C ~ 100°C)が水素脆性の破壊挙動におよぼす影響を結晶学的な観点から検討した. 室温では水素チャージ材は弾性域での早期破断を示し, その引張強さと全伸びは, 未チャージ材と比較して著しく低下した. しかし, 試験温度が低下するにつれて, 水素チャージ材の引張強さや全伸びは増加する傾向が観察され, 特に-100°C引張試験では, 水素チャージ材と未チャージ材の引張強さと全伸びは同程度であった. 変形温度の違いで水素チャージ材の破壊挙動が大きく変わる. 室温引張試験後の試験片に内在するマイクロクラックは, 旧γ粒界近傍に発生していた. 一方, -100°C引張の場合では, マイクロクラックは旧γ粒内でbcc金属のへき開面である{001}M面に沿って伝播しており, 典型的な低温脆性によるへき開破面を示した. 破壊挙動が大きく変わった原因として, 水素集積挙動の変化が考えられる. そこで, 水素脆化破壊が顕著に認められた室温引張変形中の水素集積挙動を水素マイクロプリント法により調べた. その結果, 旧γ粒界近傍で集中的に銀粒子が析出していた. このことから, 旧γ粒界近傍領域で水素脆化破壊が起こったのは, 変形促進による特に旧γ粒界での水素集積が原因であると結論付けることができる. 一方で, 低温では水素は拡散能が十分で無いため, 旧γ粒界への水素集積は阻害されると予想される. 低温で水素チャージ材の水素脆化感受性が低減(引張強さと全伸びが増加)し, 旧オーステナイト粒内における破壊が支配的になったのは, 低温において旧γ粒界での水素集積が遅延したことが原因であると考えられる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までに, 目的であった単軸引張試験におけるひずみ速度と変形温度を系統的に変化させたときの水素脆化破壊挙動をラスマルテンサイト組織の観点から調査してきた. 変形条件を変えた引張試験では, 引張試験中の水素脱離が危惧される. 本実験では, 陰極電解法による水素チャージ後の試験片表面に亜鉛電気めっきを行うことで, 引張試験中の水素脱離抑制に成功した.
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Strategy for Future Research Activity |
引張変形によって促進される旧オーステナイト粒界への水素集積が水素脆化破壊を引き起こすことで延性の低下を招くことが実験的に明らかになった. そのため, 水素脆性の抑制には水素集積メカニズムの解明が重要であると言える. 有力な水素集積メカニズムの一つに, 転位にトラップされた水素が転位運動によって運搬されることによって局所的な水素濃化を起こすとする転位輸送効果が挙げられる. 今後は, この転位輸送効果が水素集積への寄与を調べるために, 種々の転位密度を有するマルテンサイト鋼を作製し, 変形応力負荷中の水素集積挙動を調査する. 転位輸送効果が水素集積に対して支配的な集積メカニズムであれば, 種々の転位密度を有するマルテンサイト鋼で集積挙動に差異が認められることが予想される.
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Research Products
(9 results)