2014 Fiscal Year Annual Research Report
組織の恒常性維持における生理的な細胞老化の調節・除去機構の解明
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14J02966
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
江頭 真宏 東京大学, 農学生命科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 老化細胞 / 産褥子宮 / 子宮関連疾患 / 恒常性維持 |
Outline of Annual Research Achievements |
獣医学領域、医学領域において、妊娠関連疾患の治療と予防法の確立は急務である。これまでの申請者の研究において、分娩後子宮において老化細胞が蓄積することがわかっている。老化細胞は様々な液性因子を分泌し、周囲組織のガン化や炎症を引き起こすことから、分娩後子宮における老化細胞の生理的な除去が子宮の恒常性維持に重要であることが推測される。従って、①分娩後子宮に蓄積する老化細胞における細胞老化誘導機序の解明、②その老化細胞が子宮から除去される機序の解明、③老化細胞が分娩後子宮に異常に蓄積することと子宮・妊娠関連障害との関連の解明、の3点は、妊娠関連疾患を解明・予防する上で急務である。 ①について、マウスにおける細胞老化はp21、p16を介した経路によって誘導することが知られているため、各蛋白をコードする遺伝子に対し、それぞれの遺伝子のノックアウトマウス、及び双方の遺伝子をノックアウトしたダブルノックアウトマウスを作出した。その結果、当初の仮説と相反し、いずれのマウスにおいても老化細胞の現象は認められなかった。 ②について、申請者は何かしらの白血球分画が老化細胞の除去に関わるとの仮説のもと、各白血球分画に対する免疫染色を行なった。その結果、マクロファージが老化細胞領域の周囲に集積していたほか、マクロファージを除去した産褥マウスの子宮には顕著な老化細胞の増大が認められた。 ③について、p53loxp/loxp-Pgrcreマウスは妊娠子宮に老化細胞が異常に蓄積することが知られている。申請者はこれに着目し、このマウスにおいて産褥子宮に老化細胞が異常に蓄積することを明らかにした。 このように申請者は、①分娩後子宮における細胞老化誘導機序に対する示唆的なデータを得たほか、②マクロファージによる老化細胞除去機構を明らかにし、③分娩後子宮に老化細胞が異常に蓄積するモデルを確立した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
申請者の研究計画においては、当初の目的以上に進行していると推測される。その理由は以下の三点である。 第一に、申請者は細胞老化に関わる遺伝子に対するノックアウト動物を新たに作出し、細胞老化の誘導機序を理解する上で示唆に富むデータを得ることが出来た。このデータはこれまでによく研究されている機序とは異なる細胞老化誘導機序が存在することを強く示唆しており、生理的な細胞ストレス応答である細胞老化メカニズムの新たなパスウェイの発見を導く可能性がある。 また、老化細胞除去に関わる白血球分画の探索、及び候補となる白血球分画の人工的な除去により老化細胞の除去が阻害されることを立証した。これは分娩後の子宮内膜回復に関わる機構の一端を解明するものである。加えて、老化細胞とは生理的な細胞ストレスであり、どの組織においても出現しうるものである。従って、申請者の発見した機構は子宮に留まらず、生理的に組織中に出現する老化細胞の除去機構という、必ずや生理的かつユニバーサルに備わっているであろう組織の恒常性維持機構の解明の一助となるものである。 加えて、申請者は既知の早産モデル動物を利用し、分娩後の子宮における異常な細胞老化の亢進という、新規の病的状態を作出することに成功した。今後は、本モデルを用いて細胞老化の異常な亢進と妊娠成立率や妊娠関連疾患との関連の解明が期待される。このように、申請者の当該年度における研究成果は期待以上のものが認められたと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
分娩後子宮に蓄積する老化細胞における細胞老化誘導機序の解明においては、細胞老化誘導因子として既知のp21、p16が産褥子宮においては関与していないという結果を得ている。従ってこの結果から、細胞老化を誘導するに当たって未知の経路が存在している可能性や、細胞老化を誘導する経路が複数重なって存在し、一方を阻害したところで他の経路が働き、細胞老化が誘導されているといった可能性が示唆される。そこで申請者は、現在この老化細胞において細胞老化を誘導する経路を探索するとともに、細胞老化を誘導する上でp21やp16のさらに下流に存在するRbのコンディショナルノックアウトマウスを作成中である。 老化細胞が子宮から除去される機序の解明においては、分娩後子宮に存在する老化細胞の除去機構はマクロファージが担うことが示唆された。現在申請者はマクロファージが老化細胞を認識し、貪食する際にターゲットとなる分子の探索を行うべく、ヒト脱落膜細胞の初代培養系において細胞老化誘導モデルとの確立を目指している。 申請者はp53loxp/loxp-Pgrcreマウスにおいて産褥子宮に老化細胞が異常に蓄積することを明らかにした。これは病的に老化細胞を異常に組織中に蓄積する新規のモデルであり、老化細胞の異常な蓄積による組織障害を解明する上で有用であると考えられる。マウスは分娩と同時に排卵し、交配が行われた場合は正常に妊娠、出産に至ることが知られていることから、申請者は現在、このマウスを用いて分娩直後の妊娠率の観察を行っており、このマウスにおいては妊娠率が低下する傾向があるという見解を得ている。これは老化細胞が組織の機能障害を誘導し、従って組織の恒常性維持機構の一環として老化細胞の除去機構が存在するという申請者の仮説を裏付ける重要なデータとなる可能性がある。従って、今後はさらにこの分娩直後の妊娠率を精査していく予定である。
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Remarks |
①Haraguchi, H. et al. Mol. Endocrinol. の論文がNature Reviews Endocrinology, Research Highlightで紹介された(Nature Reviews Endocrinology 10, 445 , 2014)。 ②第29回日本生殖免疫学会での江頭真宏らの演題が学会賞および最高得点演題賞を受賞した。
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Research Products
(6 results)
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[Journal Article] MicroRNA-200a locally attenuates progesterone signaling in the cervix, preventing embryo implantation.2014
Author(s)
Hirofumi Haraguchi, Tomoko Saito-Fujita, Yasushi Hirota, Mahiro Egashira, Leona Matsumoto, Mitsunori Matsuo, Takehiro Hiraoka, Kaori Koga, Naoko Yamauchi, Masashi Fukayama, Amanda Bartos, Jeeyeon Cha, Sudhansu K. Dey, Tomoyuki Fujii, Yutaka Osuga.
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Journal Title
Mol Endocrinol.
Volume: 28(7)
Pages: 1108-17
DOI
Peer Reviewed
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