2014 Fiscal Year Annual Research Report
PDZ-LIMタンパク質ENH1スプライス変異体の心肥大誘導機構における意義
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14J02967
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
伊藤 淳平 名古屋大学, 生命農学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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Keywords | PDZ-LIMタンパク質 / 心肥大 / 選択的スプライシング / シグナル伝達 |
Outline of Annual Research Achievements |
我々が研究対象にしているPDZ-LIMタンパク質ENH1は、脳、心臓、骨格筋で著量発現し、N末端側に1つのPDZドメインとC末端側に3つのLIMドメイン(PDZ-3LIM構造)を有し、細胞内特定部位に各分子を集約し細胞内シグナルを効率的かつ特異的に伝達する場として働いている。近年、このENH1にはLIMドメインを欠失した複数のスプライス変異体(ENH2/3/4)が存在することがわかり、我々のグループがLIMドメインの有無によって心筋細胞内において相反する作用、健常時にENH1が過剰発現することで心筋細胞肥大を誘発し、一方で健常時に有意に発現しているLIM欠失ENH1スプライス変異体がホルモン刺激に対する肥大を抑制するということを報告した。 本研究では、この詳細な分子機序を理解するために心肥大誘導・筋肉分化に関与するENH1のスプライス変異体生成機構と各スプライス変異体の機能の解明を目的として遂行している。本研究を遂行するにあたり、1. スプライシング機構の解明、2. 心肥大誘導・抑制機構の解明の2つを研究目的とした。 ENHスプライシングにおいてLIMドメインの欠損はexon11の含/不含によるものである。本研究では、ENHスプライシング機構の調節因子としてRBM20とRBM24の二つが関与していることを同定した。また、ENH1を介した心筋細胞肥大並びにLIM欠失ENHによる肥大抑制機構の解明をラット新生児心筋細胞を用いて行った。その結果、ENH1存在下では転写因子であるCREBがリン酸化し転写活性を示したのに対し、LIM欠失変異体ではCREBのリン酸化は見られず転写の促進も見られなかった。以上の結果は、ENH1が関与する細胞外刺激から心肥大リモデリングを誘導するシグナル伝達を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
ENHスプライシング機構に関しては、計画通りに進行している。LIMドメインの有無はexon11番目の含有(LIM欠失ENH1スプライス変異体)/不含有(ENH1)によって決定される。そこで、exon11近傍のexonとintronに影響を及ぼすスプライシング因子の同定を試みた。その結果、RBM20とRBM24というスプライシング因子を候補として同定し、新生児ラットの心臓から初代培養した心筋細胞に過剰発現およびsiRNAを用いたRNA干渉によって発現抑制を行った。その結果、real-time PCR解析よりRBM20とRBM24ともに各ENHスプライス変異体の発現パターンに影響を及ぼした。この結果は、ENHスプライシング機構にこの2つのスプライシング因子の関与を示唆しており、予定通り遂行している。 次に、心肥大化機構並びに抑制機構に関しては予定以上に進行している。心臓特異的にLIM欠失ENHであるENH3を発現するマウスを作製することに成功しており、現在表現型を解析している。また、新生児ラット心筋細胞を用いた研究からENH1が関与する心肥大化機構の分子機序の一つを同定することができた。本結果で得られたCREBを介した心肥大化機構は、今まで未知であったENH1の関与する心肥大化機構の一連のシグナル伝達経路を明らかにした。同時に、LIM欠失ENHが心肥大リモデリングに対し抑制機能を示したことで、新たな心肥大の治療を提供できるものであると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
ENHスプライシング機構に関しては、スプライシング制御因子がどの配列を認識して制御しているかを解明する必要がある。疾患時、SNPにより結合配列に変異が見られた際、スプライシング制御でLIM欠失ENHを発現させることが不可になる恐れがあるためである。以上の理由から、今後はChIPアッセイ等を用いてスプライシング制御因子が結合するexon及びintronを同定、解析を行う。最終的に心肥大時にスプライシングが任意に制御できるかを解析し本研究が治療に応用できるかを検討する。 心肥大・抑制機構の解明に関しては、作製したトランスジェニックマウスを用いて個体レベルでの抑制が可能かを検討する。特に、外科的処置並びに試薬により肥大を誘導する条件下で抑制するか検討し、抑制が見られた際にはマイクロアレイを用いてENH周辺分子を同定する予定である。心肥大を誘導する機構は、いくつか報告されており、どの経路に関与するかを明確にし治療への応用を検討する。
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Research Products
(5 results)