2014 Fiscal Year Annual Research Report
高温超伝導体の固有ジョセフソン接合から得られるTHz波の発振機構の解明と出力向上
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14J03097
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
渡邉 千春 筑波大学, 大学院数理物質科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 高温超伝導体 / THz波 / ジョセフソン接合 / ジョセフソン効果 / hot spot / Bi2212 |
Outline of Annual Research Achievements |
我々は高温超伝導体に内包するジョセフソン接合を利用したTHz波発振デバイスの研究開発を行っている。このデバイスはジュール熱の効果が非常に大きく、ジョセフソンジャンクションをバイアス状態にするためにバイアスを印加すると、高電流領域においてhot spotと呼ばれる局所的に超伝導体転移温度を超える高温領域が存在することが知られており、その発振特性に与える影響が様々調べられてき。そこで我々はSiCのフォトルミネッセント発光を利用することによりデバイスの温度分布の直接観測し、発振特性との関係を観測した。その結果、微小な電流変化で急激に発振出力が減少する現象が観測され、その際にhot spotが長辺方向に10%程度ジャンプする現象が観測された。そこで外部から幅80×400μmの矩形デバイス表面に十分に絞った(直径80 micro meter)レーザー光を照射し、その部分にhot spotを引き寄せることによりhot spotの位置操作を試みた。結果、思惑通り照射したレーザー光にhot spotが引き寄せられ、hot spotの位置操作に成功することができた。驚くべきことにレーザー光をデバイスの長辺方向の端、給電点付近に照射すると、メサのおよそ真ん中に生成されていたhot spotがその部分に引き寄せられ、その際に発振強度の顕著な増大が観測された。しかし一方で、発振周波数や測定電圧に大きな変化はなかった。このような形状は同じであるが、温度分布特性の異なる別のデバイスでも観測された。さらに様々なバス温度において、温度分布制御を行わなかったときの最大発振強度よりもおよそ2倍強い発振強度が得られた。これにより超伝導領域の面積、微妙な温度分布の変化が発振特性に影響を与えているのではないかと考えられ、発振出力向上の理解に向けての重要なキーを担うであろう結果を得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
私は採用時に高温超伝導体THz波発振デバイスの発振出力の向上を最大の目標として掲げた。今年度は採用以前から行ってきたデバイスの温度分布の研究から得られた実験結果を踏まえ、デバイスの特異な温度分布特性を利用して発振出力の向上を試みた。これは学振特別研究員の申請書に研究計画として記載していたものである。その結果、デバイスの温度分布を人為的に操作することによって飛躍的な発振出力の向上が実現された。これらの実験成果は学術論文としてApplied Physics Letterに掲載され、その月におけるthe Editor's pickに選出された。これらの実験結果は今後デバイス形状、給電位置などの設計を考える上で非常に有用な実験であるといえる。しかし残念ながら具体的な出力向上の理由が分かっていない。レーザー光による外部からの熱入射をデバイス表面の様々な場所に行った際、デバイスの温度分布にさほど変化が見えないにも関わらず発振出力の高強度化が観測された。このような結果が得られる詳しい原因、機構などの詳しい理解には残念ながら現状において至ることができていない。よってデバイスのジュールヒーティングが表面に現れる効果、つまり表面の温度分布観測を行うだけではなく、他の側面からこれらの影響を観測することがこれらの結果を理解するために重要であるといえる。このように今後の実験方針を考えるうえでも、今年度の研究成果は非常に価値のあるものであり、かつ当初の研究計画に沿って計画通りにさらにそれ以上の成果を伴って進んでいると言えることができる。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までの達成度の部分で前述したように、発振出力の向上を実現する上でデバイスに生じるジュール熱の影響を多角的に見ることは非常に重要であると言える。また実際に他グループによる先行研究により、hot spotが存在する温度領域において発振周波数がac-Josephson 効果の式に従わない、つまり印加電圧に発振周波数が高電流側において比例関係にないように見えるという報告がなされた。これを、先行研究ではc軸方向に温度勾配が生じることによって、c軸方向に電圧の分布が存在し、あたかもac-Josephson効果に発振周波数が従っていないように見えると結論づけている。しかし我々はこれはデバイスにhot spot が生じ、局所的に超伝導体領域内に常伝導領域が存在することによってab面内に電圧勾配が生じてしまうためではないかと考えた。またこれを詳細に観測することにより前述したような、温度分布制御による発振出力の高強度化の原因を説明できるのではないかと考えた。実際に、我々はデバイスの長辺方向に複数の端子を設け、矩形メサ長辺方向の電圧分布を4端子測定を用いて観測した。その結果矩形メサ長辺方向に顕著な電圧勾配が存在することが観測された。給電点にhot spot生成された場合、給電点から離れるほどに電圧値が小さくなっていき電圧勾配がメサ長辺方向に存在していた。しかし残念ながら、この多端子を設けたデバイスにおいてはTHz波発振を観測することができなかった。これはデバイスの幅方向を電極端子のために設けた金属蒸着膜とリークを防ぐために設けた絶縁体蒸着膜によってデバイスからのTHz波発振が阻害されてしまうのではないかと考えられる。そこで、今後は端子の数を減らし、安定したTHz波発振が得られるようなデバイスを作製し、電圧分布と発振周波数の関係を観測することによりこれらの関係の理解に努めていきたい。
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[Journal Article] Influence of the local heating position on the terahertz emission power from high-T_c superconducting Bi_2Sr_2CaCu_2O_8+ δ mesas2015
Author(s)
C. Watanabe, H. Minami, T. Kitamura, K. Asanuma, K. Nakade, T. Yasui, Y. Saiwai, Y. Shibano, T. Yamamoto, T. Kashiwagi, Richard A. Klemm, and K. Kadowaki
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Journal Title
Applied Physics Letters
Volume: 106
Pages: 042603
DOI
Peer Reviewed / Open Access / Acknowledgement Compliant
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[Journal Article] Generation of electromagnetic waves from 0.3 to 1.6 terahertz with a high- T_c superconducting Bi_2Sr_2CaCu_2O_8+ δ intrinsic Josephson junction emitter2015
Author(s)
Takanari Kashiwagi, Takashi Yamamoto, Takeo Kitamura, Kentaro Asanuma, Chiharu Watanabe, Kurama Nakade, Takaki Yasui, Yoshihiko Saiwai, Yuuki Shibano, Hiroyuki Kubo, Kazuki Sakamoto, Takuya Katsuragawa , Manabu Tsujimoto, Kaveh Delfanazari, Ryozo Yoshizaki, Hidetoshi Minami, Richard A. Klemm, and Kazuo Kadowaki
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Journal Title
Applied Physics Letters
Volume: 106
Pages: 092601
DOI
Peer Reviewed / Open Access / Acknowledgement Compliant
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[Journal Article] Broadly tunable, high-power terahertz radiation up to 73 K from a stand-alone Bi_2Sr_2CaCu_2O_8+δ mesa2014
Author(s)
T. Kitamura, T. Kashiwagi, T. Yamamoto, M. Tsujimoto, C. Watanabe, K. Ishida, S. Sekimoto, K. Asanuma, T. Yasui, K. Nakade, Y. Shibano, Y. Saiwai, H. Minami, R. A. Klemm, and K. Kadowaki
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Journal Title
Applied Physics Letters
Volume: 105
Pages: 202603
DOI
Peer Reviewed / Open Access / Acknowledgement Compliant
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[Presentation] A role of temperature inhomogeneity and hot-spot formation on the THz emission from high Tc superconducting intrinsic Josephson junction mesa devices2015
Author(s)
渡辺千春, 南英俊, 北村健郎, 浅沼健太郎, 中出蔵馬, 安居昴紀, 幸良彦, 柴野雄紀, 山本卓, 柏木隆成, 門脇和男
Organizer
APS March meeting 2015
Place of Presentation
Henry B. Gonzalez Convention Center, San Antonio, TX, USA
Year and Date
2015-03-05
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[Presentation] The effect of temperature distribution on THz emission from high-Tc superconducting THz devices2014
Author(s)
渡辺千春, 南英俊, 北村健郎, 浅沼健太郎, 中出蔵馬, 安居昴紀, 幸良彦, 柴野雄紀, 山本卓, 柏木隆成, 門脇和男
Organizer
The 9th International Symposium on Intrinsic Josephson Effects and THz Plasma Oscillation in High-T_c superconductors
Place of Presentation
京都大学
Year and Date
2014-11-30 – 2014-12-03
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[Presentation] 高温超伝導THz波発振デバイスに生じる 静電ポテンシャル分布の観測2014
Author(s)
渡辺千春, 南英俊, 北村健郎, 浅沼健太郎, 中出蔵馬, 安居昴紀, 幸良彦, 柴野雄紀, 山本卓, 柏木隆成, 門脇和男
Organizer
第74回応用物理学会秋季大会
Place of Presentation
北海道大学
Year and Date
2014-09-18
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