2014 Fiscal Year Annual Research Report
深海熱水域における固有無脊椎動物の新奇糖結合タンパク質を介した共生機構の解明
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14J03254
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
藤吉 奏 京都大学, 農学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 深海底熱水活動域 / 異種生物間相互作用 / 共生 / 異物認識 / 甲殻類 / 血清 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、深海底における異種生物間相互作用を糖鎖生物学的に分子レベルで解明し、応用展開することを目的としている。今年度は、深海底熱水活動域に固有の甲殻類ゴエモンコシオリエビを採集するための調査航海に参加、血清中レクチンの性状解析および微生物との相互作用に関わる因子を探索し、以下の成果が得られた。 1)2014年12月11日から23日にかけて行われた調査航海に参加し、ゴエモンコシオリエビを採集した。その他現場海水や岩石の採取にも成功した。 2)ゴエモンコシオリエビの血清中に少なくとも2種類のレクチンが存在することを発見した。これまで、ウマ血球およびウサギ血球に対する凝集は観察されていたが、今回より詳細な解析を行った結果、血清に①ウマとウサギ血球の両方を凝集するレクチンと②ウサギ血球のみを凝集するレクチンが存在することが明らかとなった。 3)血清を深海性細菌(Sulfurimonas autotrophica OK10)の培地に添加し培養したところ、S. autotrophica OK10の増殖速度が血清を添加していない場合と比べて有意に低下した。このことから、血清の抗菌活性が明らかとなった。 4)これまでの研究から、血清タンパク質成分とゴエモンコシオリエビ腹部剛毛付着共生細菌との結合は観察されていた。今回、レクチンの阻害糖を添加したが、血清成分の共生細菌への結合は観察されたことから、共生菌へ結合する因子はレクチンではない、または共生菌が特異的な糖を有していることが示唆された。 従来モデル共生系の研究から『ホスト生物のレクチンが、糖鎖を介して特異的な共生菌を獲得する』ことが知られていたが、上述の成果よりゴエモンコシオリエビは新たな異物認識機構を有していることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
当初の研究計画では、本年度は共生細菌糖鎖の効率的な精製と構造解析を行う予定であった。しかし、ゴエモンコシオリエビ血清中レクチンの活性が安定しないため、現在安定かつ効率的な精製法を模索中である。加えて試料不足も研究が遅れる原因のひとつとなっている。調査航海に参加することができても、海況や状況により潜航できない場合が多々ある。今年度は、予定していた7潜航のうち実際に潜航できたのは2潜航のみであった。共生細菌糖鎖を解析するためには、精製されたゴエモンコシオリエビ血清中レクチンが大量に必要である。またレクチンの活性を保ちつつカラム等に固定化する方法も検討する必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の推進方針は、まずゴエモンコシオリエビ血清レクチンの精製法を確立し構造解析を行う予定である。レクチンを精製した後、共生細菌糖鎖の分離実験を行う予定である。 また本年度の研究により、対象生物の新たな異物認識機構の存在が示唆されたことから、共生細菌と結合する異物認識因子の探索も並行して行っていく。 2年目は、ゴエモンコシオリエビ血清中レクチンを探索してきた経験を生かし、その他の深海性無脊椎動物血清中レクチンを探索・精製する予定である。
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