2014 Fiscal Year Annual Research Report
初期のユダヤペルシア語の研究に基づく、近世ペルシア語形成期の言語状況について
Project/Area Number |
14J03295
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
立町 健悟 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 文献言語学 / イラン語学 / 中世ペルシア語 / 初期ユダヤペルシア語 / 近世ペルシア語 / 言語変化 |
Outline of Annual Research Achievements |
執筆者の研究内容・目的は, 近世ペルシア語形成期の言語状況を明らかにすることである。すなわち, 中世ペルシア語から近世ペルシア語にかけて起こった言語の変化を, それぞれの言語を比して記述し, その間の文献資料, 特に初期のユダヤペルシア語に基づいて変化の動機や環境を説明することを目的とする。 中世ペルシア語から近世ペルシア語にかけて生じた言語変化のうち, 執筆者はこれまでに, 用いられる関係代名詞の変化を扱った。 中世ペルシア語では 関係代名詞として `y, ky, cy の異なる3つの形式が用いられているのに対し, 近世ペルシア語で ky だけが専ら用いられている。執筆者は中世ペルシア語における3つの関係代名詞の機能・用法を文献に基づき研究し, `y と ky についてはその使い分けが先行詞の性質や導かれる関係節構造の違いによらないことを明らかにした。また初期ユダヤペルシア語においても複数の関係詞が用いられているが, 中世ペルシア語と同様その使い分けには明確な基準がないことを確認した。一方で, 同時代の異なる方言で, 用いられる関係詞に違いがあることや, 文献によって `y の用法が中世ペルシア語よりも広いことから, 関係代名詞の用法が時代ごとに連続して変化したものではなく, 方言ごとに異なる変化を見せ, 近世ペルシア語はあくまでもそのうちの一つの方言を採用したと考察し, 論文とした。 また, 関係代名詞の他に, 過去分詞の用法の変遷についても着目している。中世ペルシア語において多くの場合動詞形容詞を形成するために用いられる形式が, 近世ペルシア語では, 一般的な過去分詞として, より動詞的に用いられるようになった。この問題に対して, 執筆者は中期西イラン語, 初期近世ペルシア語の文献を紐解き, 時代や言語の違いに注目して考証している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究に当たって必要となる研究には 2点 ある。第 1 に基礎研究として, 研究に関連する言語の文献を網羅的に読むことであり, 第 2 にその基礎研究と先行研究に基づき, 中世ペルシア語と近世ペルシア語とで異なる言語特徴を示し, その違いを説明することである。 執筆者はこれまでに基礎研究として, 中世ペルシア語とマニ文字, シリア文字, ヘブライ文字で書かれた初期近世ペルシア語の主要な文献を読み終えているが, 網羅性の点では十分とは言えず, より多くの文献に目を通す必要がある。ことに初期ユダヤペルシア語の Ezekier Tafsir は特に重要な文献であるが, 読解が不十分であるので研究を要する。 次に言語特徴の研究についてであるが, 目下の対象となる過去分詞の変遷については, 近世ペルシア語で一般的となった, -ag (WMIr)> -a (ENP) で終わる形式に関して,中期西イラン語および初期近世ペルシア語での振る舞いを確認した。その上で, 過去分詞と特に密接にかかわる完了相についての研究が残っている。先ず, 先行研究では中期西イラン語では裸の過去分詞に est- が共起した形で完了が表されるとされているが, 用例の少なさから, 中期西イラン語において完了そのものが自立した体系であるか含めて考える必要がある。また, 初期近世ペルシア語, 特に初期ユダヤペルシア語において, -a 過去分詞によって完了を表す際, 今日のペルシア語と異なり動詞が目的語と一致することについて, 場合によっては能格性の維持ということまで含めて考察する必要がある。このような点について, 執筆者のすべき考証は依然多く残っているとせねばならない。
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Strategy for Future Research Activity |
執筆者の現在の具体的な研究内容は, 中期西イラン語から近世ペルシア語にかけての過去分詞の変遷である。具体的には, 中期西イラン語と現代のペルシア語では過去分詞の形式が異なり, 現代ペルシア語で用いられる過去分詞 (以下 ag 過去分詞と呼ぶ)は, 中期西イラン語と比してより動詞的に用いられ, 完了や受動を表すために用いられるようになった。この違いについて何らかの考証を施すことが本研究の目標である。 その際に明かすべき問題を述べる。先ず中期西イラン語において ag 過去分詞がどのように用いられているか説明しなくてはならない。特に, 多くの場合 ag 過去分詞は名詞や形容詞として用いられているが, 動詞的に用いられることもあり, その場合にどのような意味・機能を有しているか考える必要がある。また, パルティア語では中世ペルシア語よりも動詞的な ag過去分詞が頻繁に用いられているという印象を執筆者は抱いているが, そのような言語・方言的違いについても見ていかねばならない。加えて, 中期西イラン語での完了の体系性について考察する必要がある。 次に初期近世ペルシア語において, 特に初期ユダヤペルシア語においての ag 過去分詞の実態を見なくてはならない。とりわけ, 現代ペルシア語と異なり初期近世ペルシア語の ag 完了において動詞が目的語と一致することのあることは重要である。また, 初期ユダヤペルシア語では ag過去分詞の他に中期西イラン語と同じ裸の過去分詞, そして文献によっては, タジク語に残る -agi 過去分詞が用いられているが, それぞれの使い分けが問題となる。 このような問題についてを文献研究を基に考証し, またタジク語など今日の方言も参考にして研究を進めようと考えている。
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Research Products
(1 results)