2014 Fiscal Year Annual Research Report
三価ツリウム錯体を用いる二重結合への新規ヘテロ原子導入法の開発
Project/Area Number |
14J03297
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
森川 貴裕 千葉大学, 薬学研究院, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | ランタノイド触媒 / 触媒的不斉反応 / 天然物合成 / シロキシブタジエン |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、これまでに開発したツリウム錯体に加え、同じくランタノイド塩を用いたホルミウム錯体を開発した。ランタノイド塩を有機合成に利用する事は一般的ではあるものの、ツリウムやホルミウム塩をキラル触媒として有機合成に利用している例は我々の知る限りこれまでに報告がなく、その反応性や性質、錯体構造等は未解明な部分が多い。そのため、それらの解明によって、有機合成の更なる進歩が期待される。私の開発した二つの錯体は、酸に不安定なシロキシブタジエンに広く適用可能であり、基質に応じて使い分けることで良好な結果が得られることを見出した。特にホルミウム錯体は極めて少ない触媒量でDiels-Alder反応を促進することが可能であり、本触媒的不斉反応を利用し、ビンカアルカロイドの一つであるminovincineの全合成を達成した。これにより、ホルミウム錯体は、これまでに有機合成化学への報告例のないランタノイド錯体という希少性だけではなく、天然物合成にも展開可能な有用な錯体であることを実証した。また、本天然物合成の過程において、通常の還元剤を用いた還元とは立体選択性が逆転するピナコールボラン還元条件を見出した。通常ピナコールボランを用いる還元は別の試薬による活性化が必要であると共に、特別な立体選択性が発現することは知られていなかったが、本研究において、隣接基関与によってボランの活性化と立体選択的な還元が進行することが見出された。 次に、ホルミウム錯体の触媒活性種の構造を解明すべく、種々の機器分析を試みた。質量分析にて、触媒調整時に添加する試薬の最適比率を支持する錯体のピークが観測された。これは触媒の活性種に含まれるホルミウム塩と配位子の比率を解明するヒントとなりえる。そこで、この比率を参考に錯体のモデリング行い、遷移状態を予想したところ、生成物の絶対立体化学を合理的に説明できることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は特に、錯体に関する知見を集めることに尽力した。最も重要な情報となりうる機器分析は、X線結晶構造解析であり、その測定のためにツリウムまたはホルミウム錯体の結晶化を何度も試みたものの、未だ結晶化の成功には至っていない。今回の自己評価はこの点に由来したものとなっている。しかしながら、質量分析から錯体構造に迫る一つの手がかりを得た。さらに、開発した触媒が有機合成に実用的なレベルで利用できるかという点は、触媒開発の究極的な課題ではあるが、私は自ら天然物の全合成を達成することで、自身の開発したランタノイド錯体を、Diels-Alder反応に有用な触媒であることを証明した。これにより、本触媒の特徴の一部を確認できたと共に、本触媒の特徴を生かした更なる反応開発の意義を確認した。そこで、アザシロキシジエンを用いた触媒的不斉Diels-Alder反応の開発に取り組んだ。まずは、インドール誘導体であるアザシロキシジエンを合成し、Diels-Alder反応を試みた。ツリウム塩を触媒に用いて反応を行ったところ、予想に反してDiels-Alder反応ではなく、Michael付加反応が進行した。反応の促進は確認されるものの、未だ目的のDiels-Alder付加体は得ることができていない。しかし、生成物であるMichael付加体はα-アミノ酸構造を有しており、生物活性物質の合成の可能性を持っていると考えられる。また、インドール誘導体ではなく、最も単純なビスシロキシモノアザジエン及び、ビスシロキシジアザジエンを用いてDiels-Alder反応を検討するべく、現在ジエンの合成を進めているところである。
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Strategy for Future Research Activity |
錯体の結晶化に関しては、専門家である理化学研究所の候教授の助言を受けながら、引き続き試みていく。錯体の調製方法を変更したり、結晶性を上げるためにリガンドを添加したりすることを今後検討していく予定である。また、ツリウムまたはホルミウム錯体は、どちらとも金属塩・キラル配位子・塩基の三成分から調製しているが、触媒調製の簡便さや錯体の安定性、または反応後に触媒の回収等を目指すために、二成分で錯体調製ができるような設計を目指していく。具体的には、キラル配位子がルイス塩基とブレンステッド塩基の両方の機能を持ったものを合成していく。これにより、錯体の安定性が確保でき、単離が可能になれば結晶化の可能性も上がると予想される。また、別の検討で触媒回収に必要な条件を既に見出しており、本アイディアのように二成分錯体が形成できれば、触媒回収が可能であることが大いに期待できる。 アザシロキシジエンを用いたDiels-Alder反応の開発は、引き続き、様々な基質を用いて光学活性なDiels-Alder付加体の合成を目指していく。まずは、既存の基質を用いた反応を検討していく。これまでにアザシロキシジエンを触媒または不斉Diels-Alder反応に適応している例はなく、本触媒の適応が実現できれば、極めて希少性が高く特徴的な触媒であることが実証される。また、アザシロキシジエンを用いて得られる付加体は多置換ヘテロ6員環として有用なビルディングブロックであり、医薬品または医薬品候補化合物の合成への展開を目指していく予定である。
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Research Products
(5 results)